ふるさと納税「復活」の泉佐野市を支持すべき2つの理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2020年07月10日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 ふるさと納税の対象から、泉佐野市を除外した国の行為が違法であることが、最高裁で確定し、泉佐野市が今年のふるさと納税先として復活する見通しとなった。

 大阪府泉佐野市は、高還元率によって国民に魅力ある返礼品をアピールする戦略が奏功し、2018年度には約498億円もの寄付金を集めることに成功した。同市の普通会計決算では歳入総額が1330億円だったことから、当時における歳入の4割弱がふるさと納税による寄付金という珍決算となった。

 ふるさと納税は、間接的には住民税や所得税を他の地域に寄付する制度だ。つまり、どこかが寄付金を集めると、その反対には税収が減る地域が存在することとなる。そういった事情もあって、判決が確定した後も泉佐野市を非難する声は根強い。泉佐野市側の訴えを認めた判事の中にも、補足意見においては「結論にはいささか居心地の悪さを覚える」「眉をひそめざるを得ない」という具合で泉佐野市を非難する言葉を用いる者もいた。

 しかし、泉佐野市がこれまでに置かれていた状況を鑑みれば、ふるさと納税における制度の範囲内で創意工夫することについて、必ずしも「眉をひそめる」結果であるとはいえないだろう。

最高裁判決を受けて泉佐野市長が出したコメント(同市Webより)

財政難をふるさと納税で打破

 泉佐野市が、あえて国の怒りを買うような行動に出続けていた背景には、厳しい財政状況もあった。大阪府泉佐野市は、08年には財政健全化団体に指定されるほどの財政難に陥っていた。今回の勝訴に際してコメントした千代松大耕市長も、11年の市長就任直後から、自身の40%の給与削減に踏み切ると同時に、一般職についても8%〜13%規模の給与カットに踏み切らざるを得ない状況であった。

 国などの支援を除けば、「遊休資産の売却」や「人件費の削減」といった爪の先に火を灯すような策で糊口(ここう)をしのいでいた泉佐野市。当初の公算では、財政健全化団体の指定を解除されるまでには19年間、27年までかかる想定だったことが同市の「財政健全化実施プラン」に記されている。

 しかし、同市は当初の見込みより14年早い2013年に財政健全化団体の指定解除を達成することになる。しかし、これは議員・職員の人件費カットによる経費削減が依然として大きい割合を占めていた。そのため、解除後も人件費をカット前の水準まで戻すことができない状況が続いていた。

 このジリ貧ともいえる状況を打破したのがふるさと納税だ。同市は、18年にふるさと納税で集めた約498億円の寄付金を、事業や振興プロジェクトといった「投資的経費」の積立金に当てることで財政の自由度を高めることに成功した。これを受けて19年末には、20年に一般職の給与削減を解消する方針も打ち出すことができた。なお、ふるさと納税による寄付は人件費に直接あてられるわけではない。あくまで投資的経費にかかる積立金などに寄付金があてられた結果、寄付金以外の歳入を人件費などといった義務的経費により多く回すことができるという構造となっている。

 財政難は、国の援助に大きく依存することとなったり、時には自治体が破綻したりすることもある大きな課題だ。そんな中、泉佐野市はふるさと納税をチャンスにし、職員の給与をカットするという不幸な財政健全策とは別のアプローチを見出したと考えれば、それほどまでに非難すべき行為であったのかいささか疑問である。

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