「孫正義氏はアリババへの投資で運を使い切った」中国メディアが分析するソフトバンク低迷の要因浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(1/3 ページ)

» 2020年07月02日 16時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長が6月25日、株主総会で中国EC最大手のアリババの取締役を退任すると表明した。5月にはアリババの創業者で前会長のジャック・マー(馬雲)氏が、SBGの取締役から退くことを発表しており、孫氏は、「マー氏の卒業」に合わせ、自らもアリババ取締役から退くと説明した。

 孫氏は創業間もないベンチャー企業だった米ヤフーに出資し、ヤフーと共に成功したことで投資家として世界に知られるようになり、次の照準を中国に定めた。マー氏との初対面の席で、わずか6分で出資を決めたという話は、マー氏、孫氏双方の嗅覚と商才を象徴する“神話”にすらなっている。

孫正義氏とジャック・マ−氏は、出資以来20年の間柄(写真 ロイター)

 そのSBGは20年3月期通期の連結決算で、9616億円という過去最大の最終赤字を計上した。赤字の主因は、17年に鳴り物入りで立ち上げた「10兆円ファンド」ことソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先の低迷・赤字だ。

 巨額赤字が市場に波紋を広げる中で、マー氏がSBG取締役退任を発表した際には、日本ではさまざまな憶測が流れたが、同氏は19年にアリババ会長を引退して以降、中国でも役職を次々に返上しており、SBGから離れるのもその延長と言えるだろう。アリババ社内でも自然な流れとして受け止められており、孫氏とマー氏は今後も盟友であり続けるはずだ。

 一方、中国の故事「千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず」を体現するかのように、元教師のジャック・マー氏の商才を見出したことで、中国でも高い知名度を誇る孫正義氏に対する中国での評価は、10兆円ファンドとともに失速気味だ。現地メディアでは「孫氏はアリババへの投資で運を使い果たした」という辛辣な分析すら出ている。

2人の卒業に影落とす10兆円ファンドの低迷

 孫氏は6月25日に開かれたSBGの株主総会で、「アリババ株はできるだけ長く持ち続けたい」と語った。その少し前に、巨額赤字を受けて、アリババ株の一部を手放し約1兆2000億円を調達したことが発言の伏線となっている。アリババ株を持ち続けられるかは、SBGの経営状況にも左右されるだろう。

 中国ソーシャルメディア「BT財経」は、孫正義氏のアリババ取締役退任について「孫氏とマー氏は同時に互いの企業の取締役を降りたが、その道のりは違う。マー氏は昨年アリババを退任し、社会公益分野に身を投じているのに対し、孫正義氏は60歳退任計画を撤回し、今もソフトバンクで投資を率い、勇猛果敢に戦っている」と比較。その上で、「長年の友人がビジネス上の関係を卒業する温かい場面に、孫氏のソフトバンク・ビジョン・ファンドの失敗が影を落としている」と評した。

 ジャック・マー氏は創業直後、「アリババの福の神」との異名を持つ投資企業出身の智将、ジョセフ・ツァイ(蔡崇信)氏を迎え入れ、ゴールドマン・サックス(GS)などから500万ドルの出資を得た。“GSお墨付き”がアリババのベンチャー企業としてのブランドに寄与し、中国で投資先を探していたソフトバンクの投資候補リストに入ったといわれる。孫氏、マー氏が度々語っているように、GSから出資を受けた直後のマー氏は、それ以上の投資を必要としていなかったが、孫氏が「お金を使ってほしい」と口説き落とし、長きに渡る友情関係が始まった。

 結果的に、アリババへの投資はソフトバンクに数千倍の利益をもたらし、両社の成長源となった。一方で中国メディアや記者は、20年に至っても孫氏の投資の中でアリババが最大の成功案件であることを鋭く指摘している。

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