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弱者のマーケティング戦略が育てたサイボウズの生存術 VUCA時代に求められる考え方とは?組織の生産性を上げる「楽しさ」の作り方(1/3 ページ)

» 2019年12月11日 07時30分 公開

 こんにちは。サイボウズチームワーク総研のなかむらです。

 このコラムでは、第1回で「“楽しくない職場”には人が集まらない」と述べました。第2回では「仕事の意味や目的を意識することが仕事に楽しさをもたらし、チームで成果を上げることにつながる」と伝えました。第3回は「“ブラックな職場”を変えた具体的な事例」、第4回は「仕事に没頭するためのヒント」。そして今回は、「遊び心と楽しさがアイデアを生み出すこと」について考えてみたいと思います。

弱者のマーケティング戦略

 サイボウズは設立して20年ほどの会社です。自分たちの製品を売るため、創業期やベンチャー時代のマーケティング戦略は「目立つこと」でした。

 当時でいうと、IBMやMicrosoftといった大手が競合にあたります。職場で使う法人決済が必要な製品で、かつ設立間もない会社の製品を誰が買うでしょうか。

 とはいえ、製品力には自信がありました。マニュアルなしで使える、だから職場の高年齢層も使える、まずは無料でお試ししてみてください、と今では当たり前の無料試用期間ありのソフトウェアダウンロード形式で試用者を増やしていき、価格も差別化することで顧客を増やしていったのです。実は、企業向けソフトウェアがクリック1つでダウンロードできることは、当時(1990年代)では画期的なことでした。

 目立つためのマーケティングをたくさんしました。グループウェアを購入する決裁者層が好きそうなキャラクター「ボウズマン」を生み出す、限られた予算で出せる広告はメール広告くらい……そこでとにかく目立つ、目を引くキャンペーンをする。過去の事例をみたら枚挙にいとまがないほどです。

当時のボウズマン。地球上のビジネスパーソンの危機を救うため日夜奔走しているイントラの星からの使者、という設定だった

 こうした戦略のなかで、価値判断の基準は「それ、面白いの?」でした。この創業時のDNAは今でもさまざまなところで受け継がれています。「ふざけているの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう(笑)。はい。真面目にふざけています。でもそれが、自分たちが生き残るすべだったのです。

目立つためのメール広告。スパムではない

 ただ、「真面目にふざける」って、とっても大変です。お笑い芸人が普段は真面目にネタを作っているように(実際は知りませんが)、人を不快にすることなく、「これ面白い〜!!」と直感的に思ってもらえるものを創り上げるために、裏では相当な労力がかかっていることがほとんどです。

目立つ「意味の変化」と人材市場

 この「目立つ」という考え方は、商品やサービスのマーケティングだけではなく、最近では人材採用マーケティングにおいても適用され始めています。昨今ではあらゆる分野で人手不足といわれ、特に中小企業ではその影響が顕著になっているといえるでしょう。

 当然ながら人材採用の場においては、星の数ほどある企業のなかで、自分たちの会社の存在感を出すことが求められます。分かりやすくて身近な商品やサービスを持っている大手企業に比べると、B2B企業や中小企業が認知という点で不利になりやすいのは明らかです。

 一方で、大手企業であることや、商品やサービスの認知があるからといって、それに安住できるわけでもありません。認知度の高い商品やサービスであるからこそ、SNSを含めた評判が企業イメージに非常に影響しやすい昨今です。そう考えると、結局はどの企業においても、新卒やキャリアを含めた採用だけではなく、幅広く見れば顧客やパートナー企業や株主など、あらゆるステークホルダーの価値観において「いい会社」であること、つまり「この会社はイケている」かどうかが問われるようになってきているのです。

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