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欧米と日本の“いいとこ取り”でIT化を加速 ライフネット生命のCIOが取り組む、システム内製化への道(1/5 ページ)

» 2019年12月13日 08時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

 なぜ、日本は諸外国に比べてIT化が進まないのか――。この問題を議論する際に必ず浮上するのが、日本企業とIT業界を取り巻く構造上の問題だ。

 この問題を語るときに、よく引き合いに出されるのが米国企業の事例だ。いわく、米国企業は事業会社のIT部門が優秀な人材を多く抱え、業務システムを内製し、パッケージ製品をカスタマイズせずにスピーディーに導入することでITを最大限に活用している。それに比べて日本の企業は……という論法だ。

 一方、欧州の企業も一般的には日本企業と比べてIT活用が進んでいるといわれているが、その実態については米国企業ほど情報が多いわけではない。このあたりの事情に詳しいのが、2019年4月にライフネット生命のシステム戦略本部長に就任した馬場靖介氏だ。

 同氏は主に欧州の外資系企業でIT関連の要職を歴任し、その経歴を生かして現在、ライフネット生命のIT組織の「トランスフォーメーション」に挑んでいる。

 そんなバックグラウンドを持つ同氏の目に、日本のSI産業はどのように映っているのか。システム構築のコンサルティングを手掛けるAnityAで代表取締役を務める中野仁氏が話を聞いた。

Photo ITコンサル会社 AnityA代表取締役の中野仁氏(画面=左)とライフネット生命でシステム戦略本部長を務める馬場靖介氏(画面=右)

「ビジネスとITを橋渡しする組織」の立ち上げで、IT変革を加速

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中野: 馬場さんはこれまで、ずっと金融畑を歩んで来られたのですか?

馬場: 保険会社で働いていた期間が長くて、生保業界に約12年、損保業界に5〜6年ほどいました。金融以外の業界で働いていた時期もあって、製薬企業に2年ほど所属したことがあります。実は社会に出て初めて勤めた会社は貿易会社で、貿易事務や営業の仕事を手掛けていました。

中野: 初めからIT系の仕事を手掛けていたわけではないのですね。何がきっかけでITの仕事に転向したのでしょうか。

馬場: そもそも、なぜ貿易会社に入ったかというと、とにかく海外で仕事がしてみたかったんです。貿易会社ならきっと海外に行けると思って入ったのですが、実際には、たかだか数年間くらい営業の経験を積んだだけの人間を海外には行かせてくれません。

 そこで、海外や外資系企業でも通用するスキルを自身で身に付ける必要があると考えて、思い切ってITエンジニアにキャリアチェンジすることにしました。早速、第二新卒枠でITベンチャー企業に転職して、業務システムの受託開発に携わりました。

中野: 当時は金融とは関係のないシステムの仕事をしていたのですね。

馬場: 当時はそうでした。そうやってシステム開発の経験を積んでいるうちに、運よく外資系の保険会社からお声が掛かって、めでたく外資系企業に転職することができました。それ以来、主に金融業界の事業会社でITの仕事に携わってきましたが、あのときにもし違う業界の企業から声が掛かっていたら、今頃は金融の仕事には関わっていなかったかもしれません。

 結局、それ以来、IT技術者として複数の外資系企業を渡り歩いた後、2019年4月からライフネット生命でシステム戦略本部長を務めています。

中野: 久々に日系企業に勤めることになったのですね。ライフネット生命での馬場さんのミッションは一体どのようなものなのでしょうか。

馬場: 約12年前の開業時に導入したシステムということもあって、さまざまな課題が表れていました。システム開発にはコストや時間がかかりますが、ビジネス環境の変化にシステムがなかなか追いついていけない側面もありました。

 そこで、これからのデジタル時代にビジネス面で持続的な成長を続け、ITを積極的に活用して顧客価値を創造していくために、IT面の体制やプロセスに思い切って変革することになり、その担い手として私が入社したのです。

中野: 具体的にはどのような取り組みを進めているのですか?

馬場: 2020年度から数年間かけてIT部門の「トランスフォーメーション」を進める予定で、「スピード」と「安定性」を重要キーワードとして挙げています。現状のシステムはスピードと安定性の面で課題があり、これから数年間かけて大胆なシステム刷新に取り組んでいきます。その際には先進テクノロジーやアジャイル開発手法などを積極的に取り入れて、「攻めのIT」を実現していくつもりです。

 一方、「守りのIT」の領域においても、バックエンドの基幹システムのサイロ化などの弊害が出てきているので、これをシンプルなアーキテクチャにリエンジニアリングしていく予定です。中長期的には、メインフレーム資産のオープン化にもチャレンジしたいと考えています。

 体制面においても、ビジネスとITの間を橋渡しする組織を新たに立ち上げました。

 IT部門の人間はビジネスのことを知らず、ビジネスの人間はITのことが分からないということではいけませんので、ビジネス課題の解決にITをどう生かせばいいのか、ITとビジネスの両方にある程度の理解がある人間を集め、社内でITコンサルティングを行う部隊を新設しました。

 IT部門は、ただ単に業務部門に言われた通りのものを作っていればいいわけではなく、価値を提供できるものを作ることが本来のミッションです。そこで、「どうやったらITで顧客価値を提供できるか」という観点に立って社内でITコンサルティングを行える機能が必要だと考えたのです。まだ立ち上がったばかりの組織ですが、これからIT部門のトランスフォーメーションを進める上で重要な鍵を握る存在になっていくことでしょう。

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