大戸屋のドキュメンタリーが、かなりの深手になるかもしれない件(1/2 ページ)

» 2019年12月13日 08時01分 公開
[増沢隆太INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:増沢隆太(ますざわ・りゅうた)

株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役。キャリアとコミュニケーションの専門家として、芸能人や政治家の謝罪会見などをコミュニケーションや危機管理の視点で、テレビ、ラジオ、新聞等において解説している。大学や企業でのキャリア開発やコミュニケーション講座を全国で展開中。著書「謝罪の作法」他多数。


 テレビの企業密着モノはビジネス番組だけでなくドキュメンタリーの定番であり、人気です。テレビ東京「ガイアの夜明け」では定食チェーン大戸屋が取り上げられたのですが、この抜群のPRが逆効果になりかねない様相です。

1.絶大なPR効果

 広告宣伝とPRの違いはマーケティング専門家であればわかっていますが、一般的にはあまりしられていません。お金を出して好きな(伝えたい)メッセージを送る手段が広告で、PR、つまりパブリックリレーションズはその名の通り情報提供することであり、自らに都合の良いメッセージを伝えられるかどうかの判断はメディアが握っています。

 基本的にPRは情報提供であるため広告費のようなコストはかかりません。中にはペイドパブといって、お金を払って取り上げてもらうPR風広告も実際にはあり、私のような無名企業をやっている人間のところにはひっきりなしに電話やメールで「テレビや新聞で取り上げられる企画のご案内」が来ます。(これでもちょっとはテレビも新聞も出てるのに。グスン)

 代表的な番組は情熱大陸など、その人にフォーカスした追跡ドキュメントで、情熱大陸に出たことがきっかけで一気に世間にブレイクした人は数知れません。特に無名のビジネス系の専門家などが、こうした番組で取り上げられることで、一夜にして依頼が殺到し、ただちに書籍出版、別マスコミから取材と、あっという間に時代の寵児と化す……時代がかつてありました。いや今でもあるでしょうが、似たような番組も増え、かつてほどのインパクトは少なくなっているように感じます。

2.大戸屋事変

 どん底まで仕事がなくなった有吉弘行さんが、大ブレイクしたきっかけとなったのはアメトーク「おしゃクソ事変」と呼ばれる、漫才コンビ品川庄司の品川さんへの毒舌あだ名でした。単なる事件ではなく「事変」≒戦争行為だと呼ばれるほどにインパクトだといわれたのは、この日を契機に有吉さんはどん底からバラエティにトップに立ち、片や品川さんはマルチタレント・文化人から「嫌われキャラ」に激変したからです。

 大戸屋を取り上げたガイアの夜明けですが、もしかすると事変クラスのマイナス影響が相当あるかもしれません。社長自ら店長への檄を飛ばし、いかに店の収益を上げるか現場の映像を映しました。特に残業時間削減に頭を悩ます店長さんへの高圧的な発言は、ネット中心に「パワハラ」「クズは店長じゃなくて社長」といった批判が巻き起こっています。

 飲食業界、特に居酒屋などでは常態的な長時間労働、その対局のコスト削減を現場に大きく依存することからパワハラ体質が指摘されていました。それらの解決を経営やシステム化ではなく社員の根性ややる気に原因を求める「やりがい搾取」という批判があります。大戸屋社長の言動は、正にこれに当たると一部の視聴者からは捉えられてしまったようです。恐ろしいことにこうした批判はネット中心に長く伝播していく可能性があります。

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