なぜ今、証券業界で手数料無料化が進むのか?(1/4 ページ)

» 2019年12月12日 07時20分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 証券業界の売買手数料無料化の流れが加速している。米証券大手のチャールズ・シュワブは10月1日に手数料撤廃を発表。国内でもSBIホールディングスは10月30日の決算発表にて、傘下の証券会社の取引手数料を今後3年でゼロにする構想を打ち出した。

 その後、auカブコム証券とマネックス証券が信用取引の手数料無料化を発表。これを皮切りに、各社は連日のように手数料無料化施策を発表している。なぜ今なのか。そして、手数料が無料になって、証券会社はどうやって利益を上げるのか。

ファーストペンギンに付いていくと生き残れない

 「ファーストペンギンが飛び込んでいったが、ついて行ったら、そのままでは生き残れないだろう」

 横に倣えで手数料無料化を進める各社に対し、こう警鐘を鳴らすのは、日本資産運用基盤グループの大原啓一社長だ。大原氏は、日英でアセットマネジメント事業に長く携わり、マネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業後、現在は金融機関向けにプラットフォームを提供する事業をスタートさせている。

日本資産運用基盤グループの大原啓一社長

 証券会社が行う委託売買業務、いわゆるブローカレッジ業務の無料化の兆しは、しばらく前からあったと大原氏は話す。「2000年前後にオンライン証券会社が出てきたときに、ブローカレッジ無料化は運命づけられていた。”中継ぎ”業務には付加価値がないということは、業界の誰もが知っていた」

 にも関わらず、20年後の今、なぜ無料化が進行しているのか。その理由は「もう株式売買手数料に頼らなくてもビジネスが作れるようになったからだ」と大原氏は見る。

 例えば、米チャールズ・シュワブは、現在アセットマネジメント事業も銀行事業も持っている。収益の半分以上は銀行金利収入だ。SBIホールディングスも、証券事業からの収益が3割程度。ブローカレッジ業務からはさらにその3割だ。

 ブローカレッジを無料化することで、アセットマネジメント事業やアドバイザリー事業、保険事業などに誘導できるビジネスモデルを構築できているところが、満を持して手数料無料化に乗り出した。

 逆に、ブローカレッジ事業に収益を依存しているところは厳しい。「無料にする必要はないのではないか。SBIに追随すると相当きついだろう」。これが、大原氏がファーストペンギンに付いていくと厳しいと話す背景だ。

SBIホールディングスは、傘下のSBI証券やネオモバイル証券で、手数料の関税無料化を目指す計画だ
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