ヤフーとLINEの統合にみる生存戦略 情報経路の“世代間ギャップ”が次世代サービスを変える(1/2 ページ)

» 2019年12月10日 09時20分 公開
[本田雅一ITmedia]

 おそらく50代以上の読者しかピンと来ないだろうが、かつて「デジタル・ディバイド」という言葉が頻繁に使われていたことがある。

 1990年代後半、ようやくインターネットに一般ユーザーもつなぎ始めたころ、インターネットへの接続手段を持つもの、持たないもの間に情報格差が広がった。これを「デジタル・ディバイド」と呼んだ。

情報格差はなくなったのか(写真提供:ゲッティイメージズ)

 デジタル製品やインターネットを使いこなす人と、使いこなしていない人の情報格差、つまり情報を処理する速度の違いが、その後の新しい“階層”をもたらすのではないか。あるいは非デジタル世代が社会的に取り残されないか、といった懸念が持たれていた。

 今日、携帯電話(スマートフォン)にインターネットの出入り口がシフトしたことで、ほとんどの人がインターネットに接続して生活しており、もはやデジタル・ディバイドという言葉は意味を持たないように思える。

インターネット利用動向の推移(出典:総務省「通信利用動向調査」)。インターネット利用は90年代後半から一気に伸び、現在は80%以上で安定している

“ネットを使っているから”といって、同じ景色が見えているわけではない

 もちろん、情報格差がさまざまな仕事や生活の効率を変えるかもしれないが、だからといって効率が全てというわけではない。しかし、「見えている景色が異なっている可能性」は考えておいた方がいい。

 90年代後半は「インターネットを使いこなしているか否か」での違いが大きかったが、現在は「どのようにしてネットの情報に接触しているか」によって見えている景色が違っていることがあるからだ。

 例えば、先日筆者はある商品の評価記事を書いた。あらかじめ取材を重ね、関係者に話を聞いた上での記事を製品の発売日に設定されていた解禁期限にあわせて公開した。ところが掲載から数日経過すると「商品がほしいと思ったので、詳しく書いてある記事だと思って長文を読んだのに、そこらへんのYouTuberと同じようなことしか書いていなかった」という感想がTwitterを経由して伝わってきたのだ。

 近年は注目の新商品が発売されるとYouTuberが商品解説動画を掲載するのが定番だ。つまり、このコメントをくれた方は、日常的にYouTubeで情報を得て行動の起点としている。

 まずYouTubeで情報を知り、興味を持つとWebを検索する。彼にとって“最初に接触するメディア”はYouTubeであり、だからこそWebにはYouTubeでは得られない情報をもとめてやってくる。

 もちろん、実際に情報が広がる経路は逆方向(Webメディアに掲載した記事→YouTube)だ。しかし、情報の受け手の立場で考えるならば、オリジナルは「最初に接触したメディア」と感じるのも無理はない。多くの人は動画共有サイトも雑誌社や新聞社のWebメディアも、両方を使っているというのが実際のところだろう。

 しかし世代によって「どちらを先に使っているか」「日常的な情報収集の比重はどちらが大きいか」は異なる。これはさかのぼれば「テレビ」と「新聞」や「雑誌」などの間でもあったことだ。それが今、デジタルメディアになったことで、全体像が見えにくくなっているだけにすぎない。

あなたは何を使って情報を探していますか?

 そうした側面が最もよく分かるのが、グルメ情報の取り方である。

 ある人はWeb全体をキーワードを工夫して検索し、おいしそうな店の情報を探す。別の人はグルメサイト専用アプリを使い、距離情報を設定して近くの評判の店を探すだろうか。

 Web全体を検索するのか、それとも専門サイトを使うのか。あるいは専門サイトが提供しているアプリを使うのか。情報を探す形が違うだけで、本質的な差はない。

 しかし、見知らぬ土地でなにかおいしいものを……といったとき、あるいは外国への旅行でといった場合は、Webでの検索では実態がよく分からない。そこでSNS世代がよく使うのがInstagramだ。

 Instagramを用いて、近くでどのような写真が撮られているかを検索し、興味をひいた写真を見つけると、その写真に付けられているお店のハッシュタグで再検索。するとその店の人気メニューや評判があぶり出されてくる。詳しいテキスト情報のレビューを理解しなくとも、写真と位置情報でサクッと目的を定められるという点でInstagramにはグルメ専門サイトを超える利便性がある。

 Instagramはファッション系でも、自分好みのファッション情報を得るために使っている人が多いが、このようにグルメ、あるいはご当地観光情報のネタもととして使われることが多い。このような情報の取り方の違いは、“鉄道の運行状況”といったリアルタイムの情報を得る方法でも差が生まれている。

 先日、千葉県の台風被害で成田空港が機能不全に陥った。このとき筆者はたまたま成田へと向かっていたが、鉄道各社のWebサイトは機能不全に陥っていた。例えば、京成スカイライナーはWebでの座席予約を受け付けていたのだ。もし、この予約が有効だと思って駅に向かっていたら、筆者は米国出張に行けなかっただろう。

 しかしTwitterで情報を検索したところ、座席予約は「念のために取っている」だけのものであり、実際には復旧のめどが立っていないというボヤキが浮かび上がった。情報を取るツールによって、同じようにスマートフォンを使っているように見えても、見えている風景は異なる。

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