アトムにナウシカ……マンガ・アニメ原画が海外で1枚3500万円の落札も――文化資料の流出どう防ぐジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(1/6 ページ)

» 2019年12月05日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]

 2018年5月にフランス・パリで開催されたオークション(主催会社:アールキュリアル)で、手塚治虫のマンガ原稿の原画1ページ分が26万9400ユーロで落札された。作品は手塚の代表作『鉄腕アトム』、1950年代に描かれたものだ。日本円に換算すると約3500万円。当初の落札予想価格の4万〜6万ユーロを大幅に上回った。手塚治虫の直筆原稿は、それまで国内でも高額取引されていたが、それでも破格の価格だ。

photo 名作アニメ原画・セル画の数々
photo 名作アニメのセル画の数々

『ポケモン』『ドラゴンボール』がサザビーズに登場

 今年10月には、マンガ・アニメ関係者で話題になった別のオークションもあった。大手オークション会社のサザビーズが香港で開催した現代アートオークションである。140点あまりのロットのなかに、『ポケットモンスター』『それいけ!アンパンマン』『ワンピース』など、日本の人気マンガの原画やアニメ制作に使用されたセル画が全部で9点出品された。

 手描きの背景美術が付いた『ドラゴンボール』のセル画1枚は、落札予想価格3万香港ドルの3倍を超える10万2500香港ドル(約143万円)、『風の谷のナウシカ』のポスター原画が106万2000香港ドル(約1500万円)と、こちらも高額落札が相次いだ。

 サザビーズはアート界ではクリスティーズと並ぶ世界二大オークションハウスの1つだ。そこでセールスされることは、権威づけにもなる。しかも現代アートの中での扱いが驚きを与えた。

 なぜオークションハウスが、日本のアニメ・マンガを取りあげるのだろうか。もともと欧米では、アメリカンコミックスやヨーロッパのバンドデシネ(マンガ)の原画、アニメーションのセル画などをオークション売買する習慣があったからだ。二大オークション会社でも、アニメーションやコミックス分野に特化したオークションはたびたび開催されている。

3億円超えのマンガ原画も

 さらに近年はコレクターの広がりもあり、落札価格が急上昇している。2008年まではフランスの作家エンキ・ビラルの『青い血』のマンガ原画についた17万7000ユーロ(約2500万円)がこの分野の最高落札価格であった。

 ところが08年3月にアールキュリアルでベルギーの作家エルジェの代表作『タンタンの冒険』の原画が約76万4000ユーロ(約1億2000万円)で落札され記録を一気に4倍に塗り替えた。14年にはやはり『タンタンの冒険』の原画が265万ユーロ(約3億7000万円)で落札され、記録はさらに3倍となった。

 米国でも14年に『スーパーマン』が初めて掲載されたコミック誌「アクション・コミックス」創刊号が、インターネット競売のイーベイにて約320万ドル(約3億3000万円)で落札されている。こちらは原画でなく雑誌であるが、ポップカルチャーのコレクションが盛りあがっている。こうした流れのなかで世界のポップカルチャーに大きな影響を与えてきた日本のマンガ・アニメにも関心が集まる構図だ。

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