ファーウェイのスマホは本当に「スパイ」可能か――米国が「禁輸」する真の狙い米中貿易戦争の真実(1/6 ページ)

» 2019年11月21日 06時00分 公開
[遠藤誉ITmedia]

編集部からのお知らせ:

本記事は、書籍『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(著・遠藤誉 、毎日新聞出版)の中から一部抜粋し、転載したものです。中国問題の第一人者である筆者が暴露する、米中貿易戦争の裏側についてお読みください。


 2019年4月3日、アメリカの国防総省(Department of Defence)にある国防イノベーション委員会(DEFENCE INNOVATION BOARD)が5Gに関する報告書“THE 5GECOSYSTEM :RISK & OPPORTUNITIES FOR DoD”(5Gエコシステム:国防総省に対するリスクとチャンス)を出している(以後、「国防報告書」と称する)。

 エコシステムというのは本来エコロジー(生態系)システムのことで、一般的には生態環境などを対象としたエコロジーのことを想起するが、最近では「エコ」と言うと「環境にやさしい」など、少しずつずれた使い方をしている。

 5Gエコシステムとなると、本来の意味から、もっとずれていく。

photo 米国から「禁輸」措置を受けているファーウェイ。背景には5Gの問題がある(上海の店舗。提供:ロイター)

ファーウェイ禁輸の裏に「5Gシステム」問題

 情報通信産業においては、動植物の食物連鎖や物質連鎖といった生物群の循環系という元の意味から転化して、経済的な依存関係や協調関係、あるいは強者を頂点とする新たな成長分野でのピラミッド型の産業構造といった、新しい産業体系を指すようになった。

 5Gエコシステムというのを定義するならば、「5G基地局すなわち通信設備製造企業(ファーウェイ、エリクソンのようなベンダー企業)、ネットワーク・プロバイダー(ソフトバンクやauあるいはNTTドコモのようなキャリア業者)、アプリケーション開発者(GAFAやBATなど)という、ネットワーク層(設備層)からアプリケーション層までを効率よくカバーするシステム」とでもなろうか。

 そんなこといちいち説明しなくても分かっているよと、通信技術のプロの方からはお咎(とがめ)を受けそうだが、私は理論物理という分野で思考回路を形成されてしまったために、「しっくりとは分かっていないこと」を「まあまあ、分かったような顔をして通り過ぎる」ということがどうしてもできない性格になってしまった。古典物理や量子力学あるいは分子動力学などなら、ほぼひとこと言われれば納得できるのだが、最近の最先端の通信技術分野となると、この年齢でスイスイとついていけるわけがない。

 だからゼロから噛(か)み砕きながら納得し、一歩ずつ先に進むことしかできないのである。

それをお許しいただいて、図3-1をご覧いただきたい。

photo TCP/IPと代表的な5G企業の立ち位置

 PCであれ、スマートフォン(スマホ)であれ、基本この図3-1のような構図で情報が動いている。

 左側にあるのは私たちが日常的に使っているネットワークの通信規約(プロトコル)の「TCP/IP」である。

 TCP/IPはもともとアメリカ国防総省の高等研究計画局(ARPA)が開発した世界初のパケット通信コンピュータ・ネットワーク ARPANET から更に発展し、今私たちが使っているネットワークの根幹となる規約だ。

 この国防報告書が実際に考察対象としているファーウェイなどは、図3-1から言えば、あくまでも物理的な接続なので、実際の接触に相当する「ネットワーク・インターフェース層」に属する。これを「リンク層」とも言う。ほかにノキアやエリクソンなども5Gのベンダー企業という意味で、この層に属する。

 その上のインターネット層・トランスポート層は、日本でいうならば、例えばソフトバンクやau、 NTTドコモなどの通信業者が担当し、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)やBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)のような企業は基本的にアプリケーション層で活動している。

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