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新人指導で「とにかくやってみろ!」はNG 対話で新人の特性を見極める新人の育て方 第1回(1/2 ページ)

» 2019年11月20日 07時00分 公開
[島村公俊ITmedia]
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 「新人を早く一人前に育てたい」「でも懇切丁寧に教える時間はない」というジレンマは、多くの指導者が抱える悩みです。ソフトバンクで2万人の社員教育に関わり、「10秒で新人を伸ばす質問術」(東洋経済新報社)を上梓した人材育成のプロが、全5回にわたってその処方箋を提示していきます。

「論理重視」か「気持ち重視」か新人の特性を見極める

 新人や若手を教える指導者が、仕事を依頼するときについ口にしてしまい、多くの新人が不安になる言葉があるとしたら、それはなんだと思いますか? それは、「とにかくやってみろ」という言葉です。

 この言葉は、多くの新人の生産性を低下させ、新人が一人前になるスピードを鈍化させるのです。このような指導者主体の教え方では、なかなか新人が成長しにくく、育成担当としての力量も疑われかねません。

 本項では、この課題を解消し、新人主体の教え方を明らかにし、早期に一人前に育てるアプローチをお伝えしていきます。

新人育成で気を付けるべきことは?(写真提供:ゲッティイメージズ)

「とにかくやってみろ ! 」は逆効果

 新人を最速で一人前に育成するにあたって、大切なことがあります。それは「新人によって、分かりやすい教え方は違う」ということです。

 私が研修などで、「新人に好みの教え方を選択させましょう」というと、「新人はお客さまじゃないんだから、そこまで気を使う必要はない」と違和感を抱く人も一定数います。あなたは、どのようにお感じになるでしょうか?

 確かに、一昔前は「教えるほうが上」「教わる方が下」という構図が今以上にハッキリしていました。「上の者」が「下の者」に何かを合わせることなど、あまりなかったはずです。

 その名残で、新人に対して「取りあえず、つべこべ言わずやってみろ!」と、まるで泳げない人をいきなりプールに突き落とすような行為をする指導者がいまだに多いようです。その結果、コストをかけて採用したにもかかわらず、早期離職につながったり、場合によってはメンタル不調になって休職する人も出たりします。

 指導者が相手に合わせることをせず、「俺の背中を見て育て」「まずはやってみろ」という場当たり的な育成は、無計画かつ非効率な育成そのものです。このようなアプローチを続ける限り、早期に新人を一人前にするのは難しいと言えます。今後はこのようなアプローチをやめることが大切です。

仕事の教え方は新人に決めさせる

「とにかくやってみろ!」はNG(写真提供:ゲッティイメージズ)

 多くの指導者は、「新人によって、分かりやすい教え方は違う」ということをつい忘れてしまいます。自分の教え方が新人の求めるそれとマッチすればいいのですが、そうではないケースもあるわけです。「一生懸命教えているのに、どうして新人がきちんと育たないんだろう?」と感じるのは、このミスマッチが原因とも考えられます。

 従って、入社の初期段階では、新人が最も好む慣れ親しんだ教え方を採用し、学習のスタートダッシュをはかることが重要です。

 私がそのことに気付いたのは、今から10年以上も前のことです。ソフトバンクの携帯電話ショップの店頭で、新人スタッフとして配属され、トレーニングを受ける側だったときにさかのぼります。

 私は、事前に全てのレクチャーを受けて「大丈夫!」と自分に確信を持ってから、実際に店頭の接客に出たいと思うタイプでした。相当な心配性で、失敗を極度に恐れるタイプです。

 しかし、同じタイミングでショップの現場に配属されたもう一人の新人スタッフはそうではありませんでした。「トレーニングはそこそこにして、早く店頭で接客させてほしい」と先輩スタッフに願い出るタイプでした。

 当初、指導担当の先輩スタッフは、できれば全員の新人に対して、詳しいレクチャーをしてから店頭で接客をさせたいと考えていました。なぜなら、レクチャーが全部終わらないうちに店頭で接客させると、お客さまに迷惑が掛かってしまうと心配していたからです。

 しかし、「早く店頭に出たい」と願い出てきた新人があまりの勢いで迫っていくので、その迫力に押された先輩スタッフは「そこまで言うなら、概略を説明したあと早速やってみようか?」と伝えたのです。するとその新人は、こう返事をしました。「ありがとうございます。体験したことのないことについて説明を受けても、全然頭に入ってこないので助かります!」。

 その新人スタッフの接客の様子を遠くから眺めていたのですが、案の定ところどころお客さまへの説明を間違えていました。しかし、そのたびに指導担当が後方からそっと指摘して訂正を促すと「ああ、そういうことか」とその都度納得し、なんとか接客をこなしていきました。お客さまも、説明が少し拙いくらいであれば許してくれる場合がほとんどだったのです。

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