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「がん離職」を防ぐために100万円支給――「社員の病気=経営課題」に会社はどう向き合ったか連載「病と仕事」(1/3 ページ)

» 2019年11月11日 05時00分 公開
[小林義崇ITmedia]

 国立がん研究センターによると、2017年にがんにより死亡した人は37万3334人に上る。高齢になるほど、がんの罹患率は高まるが、働き盛りの年齢でがんを発症する可能性もゼロではない。精神面、経済面、仕事面のケアが求められる従業員の病に対して、職場はどういったサポートができるのだろうか。

 がんに罹患した社員に対する基金を創設したガデリウスグループ(東京都港区)の経営統括本部本部長の池田佳久さんに創設の経緯などを取材し、がん基金を利用した当事者にも話を聞いた。

phot 池田佳久(いけだ・よしひさ)1996年にガデリウス・トレーディング株式会社(現・ガデリウス・インダストリー株式会社)に入社。印刷器材事業部、LEH建材事業部事業部長を経て2010年よりガデリウス・インダストリー株式会社 取締役。現在はガデリウス・メディカル株式会社、ガデリウス・サービス・エンジニアリング株式会社の取締役も兼務する。2015年1月よりガデリウス・ホールディング株式会社経営統括本部長

社員の生活が、がんの治療費で立ち行かなくなる

 ガデリウスグループ(ガデリウス・ホールディング株式会社、ガデリウス・インダストリー株式会社、ガデリウス・メディカル株式会社)は、1890年にスウェーデンで創業した貿易商社だ。1907年に創業者であるクヌート・ガデリウス氏が横浜に日本初の支店を開設し、現在は専門商社として、建設機械、生産機械や産業機材、印刷器材、建築材料、医療機械・医療器具などの輸入販売を手掛けている。

 同社にはグループ全体で約180人の従業員(パートを除く)が在籍し、主な年齢層は40代と50代に集中している。同社において、2017年に新たに創立された福利厚生制度が、「ガデリウスがん基金」(以下「がん基金」)だ。この制度は、がんに罹患した社員に対して、会社から治療費として一律で100万円を支給し、がんの治療費に充ててもらうことを目的としている。制度が設立された経緯について池田さんはこのように話す。

 「16年から17年にかけて、当社の社員が立て続けにがんで亡くなりました。このうち1人は治療期間が長期となり、抗がん剤の治療費などで多額の費用がかかっていたようです。がんの治療内容によっては社員の生活が立ち行かなくなることを知った社長のヨスタ・ティレフォーシュの発案により、がん基金が設立されました」

 同社では、毎年11月から12月にかけて、「サンタツアー」と称する行事が開かれている。サンタツアーは、社長が全国の事務所を巡り、クリスマスギフトを渡し懇親会で社員をねぎらうことを目的として行われているものだが、17年のサンタツアーでは、がん基金の趣旨について社長から社員へ直接説明がなされたという。

 「がん基金について、社員からは『ぜひやってほしい』といった賛同の声が多く寄せられました。サンタツアーは、社員のねぎらいを目的とする一方で、社長にとっては社員の声を直接聞く場でもあります。サンタツアーをきっかけにして生まれる福利厚生制度も多く、男性の育児休業休暇2週間の義務化、消費税増税時の手当金補助、屋根付き駐輪場の設置といった制度がこれまでに生まれています」(池田佳久さん)

phot 社長のヨスタ・ティレフォーシュ(左)の発案により、がん基金が設立された
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