カネがなければ諦めろ? “身の丈”に合わせる英語民間試験導入は廃止すべき理由河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/5 ページ)

» 2019年11月08日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

 身から出た錆(さび)といいますか、自爆とでもいいましょうか。

 萩生田光一文部科学相の「身の丈に合わせてがんばって」発言が火種となり、大学入学共通テストへの英語民間試験導入が“やっと”、本当にやっと延期になりました。

 内閣改造の記者会見で記者から突かれた際には、「問題があれば、制度を磨いて、国民、受験生の皆さんに納得いただける試験にブラッシュアップしたい」と体よくかわしていた萩生田大臣でしたが、テレビ出演で気持ちが少しだけ大きくなっていたようです。

 10月24日のBSフジの番組で、萩生田大臣は英語民間試験の利用における不公平感について問われ、「それを言ったら『あいつ予備校通っていてずるいよな』というのと同じ」と反論。その上で「自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえれば」と、思わず本音をこぼしてしまったのです。

 飲み屋のおじさんトークでもあるまいし、文科大臣たる人が「身の丈」とは、開いた口がふさがりません。日本国憲法や教育基本法を理解していないし、大学進学が経済格差を解消するという社会的意義もわかっちゃいない。

 要するに「俺たちの言うことだまって聞いてりゃいいんだよ。貧乏人は大学なんか行く必要ないよ」ってことなのでしょう。

大学入試における英語民間試験導入は延期になったが……(写真提供:ゲッティイメージズ)

 取りあえず延期となった民間試験導入は、当初から反対意見が相次いでいました。6月には中止を求める請願書を大学教授などが国会に提出。大学側からの反発も強く、東大、京大、名古屋大が「民間試験の成績だけでなく、高校による英語力の証明書でも認める」との見解を示し、東北大、北海道大、京都工芸繊維大は、2020年度は民間試験の成績を合否判定に使わないと明言していました。

 8月に文科省が開設した、英語民間試験の情報をまとめたポータルサイトには「未定」という文字が目立つなど、準備不足が露呈。しかも、決まったプロセスが全く明かされてない一方で、試験料は最低でも3000円、高額なものでは2万8000円程度で、試験会場も都市部などに限られ、問題は山積みでした。民間試験を実施する各団体は、試験に対応する参考書・問題集販売などの収益が期待されますから、どうしたって「金を使わせたい!」という人たちの思惑がプンプンしていたのです。

 つまるところ、一向に日本人の英語力を向上させることができない教育界のツケを親のカネにすり変えたという、許しがたい計画なのです。

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