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なぜ日本で「自作キーボード」が流行り出したのか そのきっかけを振り返るハロー、自作キーボードワールド 第1回前編(1/2 ページ)

» 2019年10月21日 07時00分 公開
[ぺかそITmedia]
左右分離式の自作キーボード「Fortitude60」(オタクブラック)

 最近、「自作キーボード」という言葉をどこかで目にしたことがあるかもしれない。PCの入力インタフェースであるキーボードといえば市販品を購入するのが一般的だが、「自作キーボード」という言葉は、自身で組み立てたりカスタマイズしたりしたキーボード、さらにはそうした行為自体のことを指す。

 「自作PCと似たようなもの」と考える人もいるだろう。自作PCは自分の用途にあった構成を考え、パーツを選び組み立てることで、自分好みのスペック・見た目のPCを作ることだ。自作キーボードも同様に、構成を考えパーツを選び、組み立てることで、自分だけのキーボードを作る。

 しかし自作キーボードは、似たように見えて自作PCとも違った面白さや奥深さを備えている。

 本連載では、自作キーボードの作者であり、キーボード関連のニュース動画「ほぼ週刊キーボードニュース」を配信しているぺかそ(@Pekaso)とびあっこ(@Biacco42)が、自作キーボードの世界の“入り口”を紹介していく。

YouTubeで配信中の「ほぼ週刊キーボードニュース

 今回は、日本で自作キーボードが盛り上がった経緯や、自作キーボードの魅力、2019年版自作キーボード入門法などを前後編でまとめた。

ぺかそ(@Pekaso)

自作キーボード「Fortitude60」作者。自作キーボードの基本から設計方法までまとめた同人誌「BUILD YOUR OWN KEYBOARDs」を執筆。

びあっこ(@Biacco42)

自作キーボード「Ergo42」作者。自作キーボードのDiscordコミュニティ「Self-Made Keyboards in Japan」管理人。

連載:「ハロー、自作キーボードワールド」

自作キーボードの作者であり、キーボード関連のニュース動画「ほぼ週刊キーボードニュース」を配信するぺかそとびあっこが、自作キーボードの世界の“入り口”を紹介していく。

第1回前編はぺかそが執筆。


自作キーボードの魅力 例えるなら「万年筆」

 自作キーボードの最大の特徴は、直接手が触れる入力インタフェースを自作するところにある。例えるなら、筆記具の万年筆を自作する感覚に近い。

 PCが普及した現代では、文字を書くのはもっぱらPCでペンはほとんど触らず、使ってもボールペンで万年筆なんてとても……という人もいるだろう。かつて筆記具として主流だった万年筆は、安価で扱いやすいボールペンに取って代わられたが、独特な書き味や見た目などから、趣味の筆記具として使われたり、コレクターに収集されたりしている。

 安価に手に入れられる市販品のキーボードを安価なボールペンに例えると、自作キーボードは高価で趣味性が高いことから、実用性がありつつもペン先や軸胴などで書き味や装飾などを楽しめる万年筆に近い存在といえる。

 ネット上で「自作キーボード」と検索すると、一般的に見かけるキーボードの形をしたものもあれば、一見してキーボードに見えないようなものまで出てくるのが分かる。

「自作キーボード」の画像検索結果 色とりどりで独特な形状をしたキーボードが多く見られる。これらの内、国内外からパーツを取り寄せて組み立てたり市販品を改造したりしたものは「カスタムキーボード」と呼ばれるが、本記事では包括して「自作キーボード」として扱う

 自作キーボードは一般的なキーボードより部品の数が多く、各パーツも一般的に単価が高い。パーツの選び方にもよるが、1台組むと安くて1万円、構成などによっては数万円以上にもなることも多い。

 高級キーボードの代名詞的な存在であるPFUの「Happy Hacking Keyboard」が約3万円であることを考えると、自作キーボードは非常に高価なキーボードに分類される。

 その代わり、ペン先やインクを変えて書き味や筆跡の変化を楽しむ万年筆のように、パーツの選び方一つでキーボードの特性が変わるというのが、自作キーボードの楽しみの一つだ。

 例えば、指先がキーを叩いたときの打鍵感や打鍵音の変化だ。これらが変わると、長時間の入力による指先の疲れ方にも影響する。さらに、個人の手に合わせたキーの並べ方や、色・形を含む外観なども自由自在で、機能も見た目も楽しめるのが大きな魅力だといえる。

 もちろん、安価なボールペンでも不満がない人がいるように、キーボードも入力さえできれば問題ないという人もいる。これも一つの合理的な考え方だろう。しかし、現代の筆記具であるキーボードは仕事などで毎日利用するもの。そんな身近な道具を自分の手で作ると愛着も湧き、日々の入力が格別になる。まずは一度試してみてほしい。

なぜ今、日本で自作キーボードが盛り上がっているのか

 日本国内の自作キーボードのムーブメントは2016年ごろから立ち上がり始め、2018年ごろにITエンジニアなどを中心に認知が一気に進んだと思われる。

 「アドベントカレンダー」という企画からもその様子が伺える。これは12月頭からクリスマスまでの25日間に、複数人が特定のテーマに沿ったブログなどに執筆した記事を持ち寄るという有志ベースの企画だ。自作キーボードのアドベントカレンダーを振り返ると、2017年には記事数が25本だったのに対し、2018年には72本と大幅に増えた。

 キーボードを自作する行為自体はPCの黎明期から行われてきたが、「自作キーボード」がここ数年で盛り上がりを見せたのには、いくつかの理由がある。

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