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「社員の8割以上がテレワーク」でも会社は動くのか 実現した女性社長に聞く特集・日本を変えるテレワーク

» 2019年10月18日 11時00分 公開
[村田朱梨ITmedia]

 働き方改革関連法の施行から約半年。自社の生産性向上や柔軟な働き方を目指して、テレワークやリモートワークの導入を進める企業も増えてきた。そんな中、すでに社員の8割以上がテレワークで働いている企業がある。Webサイトの育成や運営代行を手掛けるヘノブファクトリー(東京都渋谷区)だ。会社にいない社員が多数派になっても、スムーズに仕事を進めることはできるのか。自身も週3日ほどはテレワークで働いているという、同社の谷脇しのぶ社長に話を聞いた。

テレワーク社員ばかりで会社は回るのか

 ヘノブファクトリーの社員は、Webデザイナーやコーダー、ディレクター、マーケター、バックオフィスなど計12人。毎日のように出社しているのは2人だけだ。残りはテレワークで働きながら週に数度出社するか、ほとんど出社しない「フルリモート」で働いている。フルリモート社員は愛知や宮古島など遠方の自宅で在宅ワークをしており、東京に住んですらいない。そんな状況で、一体どうやって仕事を回しているのか。

 谷脇社長によると、スケジュールは社員がそれぞれのGoogleカレンダーに予定を登録し、全員で共有しているという。打ち合わせや相談がしたければ、相手の空き時間を探して「ここなら会議できる?」とチャットやメッセージアプリで連絡する。子育て中の社員には「子供の対応中」「保育園のお迎え」といった予定も登録してもらっており、席を外すたびに連絡を入れなくても、対応可能な時間に会議やミーティングができるようにしているそうだ。タスクはチームや案件ごとにチャットワークやSlackで管理しており、Web会議にはSkypeやZoomなど参加者が使い慣れたものを自由に使っている。

 ツールがバラバラでは管理コストがかさみそうだが、谷脇社長は「全部を管理しようとは思っていない」と笑う。「社員の全てを管理するのは絶対に無理。管理することが前提だと、テレワークは導入しにくいと思う。うちの場合は『これだけは管理したい』というものだけ押さえて、後は気になったときに確認できるよう、どこかに可視化されていればいいというルールにしている」(谷脇社長)

photo ヘノブファクトリーの谷脇しのぶ代表取締役社長

 顧客企業からWebサイトの制作や運営を任されているヘノブファクトリーにとって、最も重要なのは、預かっているサイトをよくするための制作物が作れたかどうかだ。そのためのタスクを把握し、必要に応じてコミュニケーションが取れる状態が整っていれば、社員の行動をいちいち把握しなくてもいいと判断したという。

 「管理したいものを突き詰めてみたら、社員が着席しているかどうかや、PCの前にいるかどうかには全く興味がなかった。『あの仕事、誰がやってたっけ?』『今日中に電話で話したい』と不安に思ったときに確認できる状態が作れれば問題ない」(谷脇社長)

 全員が全員の予定やタスクを把握できるようにしたことで、抜け漏れがあればお互いに指摘しあうようになった部分もあるそうだ。現在ヘノブファクトリーには、毎日のように他の社員と顔を合わせて仕事をしている人はほとんどいない。それでも「誰が何をしているか分からない」状態になることはないという。

 そんなヘノブファクトリーだが、実は最初からテレワークがうまくいっていたわけではない。

テレワークは、画面越しに出せることが全て

 今でこそ「必要なものだけ管理すればいい」という姿勢の谷脇社長だが、導入当初は「テレワークでもちゃんと成果が出るのか」と気が気でなかったという。ヘノブファクトリーで最初にテレワークを始めたのは中途採用した谷脇社長の知人で、スキルも人柄もよく知っていたが、それでも「作業が滞らないか」「意思疎通がスムーズにできないのではないか」といった不安は拭えなかった。

 谷脇社長は「彼ならきちんと仕事をしてくれると分かっていても、『その場にいない』というだけで、最初はとても不安だった。1日に何十回も電話をしたり、始業の連絡から業務内容まで逐一報告してもらったり、連絡がとても多かった」と当時を振り返る。

 そこで感じた不安は、直接顔を合わせるタイミングで共有し、徐々に解消していった。その中で「昼休みに入るときは連絡を入れる」「お互いのスケジュールは確認できるようにする」といったテレワークのルールを作り、3カ月ほどかけて整備したという。

 その間に谷脇社長は、他の社員にも「1週間だけ」など短期的なテレワークを提案。誰でもテレワークが可能かテストしながら、Web会議をスムーズに進めるコツや、情報共有のポイントを少しずつ把握し、社内にも共有していった。そうして、顧客企業など社外の人ともテレワークでスムーズにやりとりできるようになる頃には、導入から2年がたっていた。

 「テレワークでは、対面とは違うコミュニケーションスキルが必要になる。自分から必要なコミュニケーションを取りにいく、疑問に思ったことを放置しない、Web会議で音声が途切れたら素直に『聞こえませんでした』という。些細なことばかりだが、テレワークで働くなら、画面越しに100%を出せるよう、社員を教育する必要がある」(谷脇社長)

テレワークのノウハウを採用にも活用

 谷脇社長は現在、ヘノブファクトリーでのテレワーク経験を元に、ウェブノという会社を立ち上げ、新しいビジネスに取り組んでいる。提供しているのは、Web担当者の獲得に苦戦している企業の採用や人材育成をサポートする「webnoHR」という伴走型のサービスだ。

photo webnoHR

 「自社サイトを運営するWeb担当者を募集している企業は多いが、多くの場合『Web担当者にしてほしいこと』と『その実現に必要なスキル』を正確に把握していないことが多い。そこで、スキルに関わる部分のジャッジを、私たちがサポートできればと考えた」(谷脇社長)

 webnoHRの特徴は主に2つ。1つはテレワーク前提でWeb担当者を募集すること。Webサイト運営のスキルはあるが、「地元を離れられない」「会社に通って働くのは難しい」といった事情を抱える人をターゲットにすることで、応募要件にマッチする人材を全国から採用しようと考えたからだ。

 もう1つは、採用したWeb担当者とそれを評価する管理者の両方をウェブノがサポートすること。ヘノブファクトリーで培ったノウハウを活用して、Web担当者がテレワークでもスムーズに仕事をできるようにする他、「Web担当者の仕事をどう評価すればいいか」「どんな仕事まで任せられるスキルがあるか」といった管理者側の疑問にも、チャットサポートなどを通じて答えていくという。

 「地方にいると、スキルがあっても仕事がなく、やりたい仕事を続けられないことも多い。リモート採用を普及することで、場所に縛られることなく価値のある仕事を続けられるWeb担当者を増やすことができたら」(谷脇社長)

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