米中貿易摩擦の本質は何か? “気分”には影響しても、米経済のトレンドには影響せず 日興アセット神山氏(1/2 ページ)

» 2019年10月15日 14時13分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 米国と中国との貿易摩擦が日々のニュースを賑わしている。市場も、トランプ大統領のTwitter発言に都度翻弄されているが、交渉がどのように推移しても、「米中貿易摩擦の本質は、これから5年の間にはそう簡単に変わらない」。

 そう話すのは、日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト、神山直樹氏だ。

日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジストの神山直樹氏

そもそも何が米中の”摩擦”なのか

 制裁関税などの交渉の行方ばかりがニュースとして注目されるが、そもそも何が米中の”摩擦”なのか。神山氏は、米国は長年に渡って中国の不公正批判を行ってきていたと説明する。

 批判の対象は、中国の知的財産権保護の不十分さ、国営企業優遇による競争排除、補助金によるダンピング支援だ。米国は中国にこれらの問題の解決を要求してきたが、トランプ大統領は実際に追加関税というアクションを取ったところが新しい。

 何もないところから追加関税の話が出てきたわけではなく、こうした長年の摩擦がついに追加関税として結実したことになる。つまり、関税に関する交渉がまとまっても、本質的な問題が解決されないかぎり、摩擦は残り続けることになる。

中国も米国も同じゴールに向かっている

 しかし知財保護や国営企業優遇などについては、実は既に中国は政策の中に改革項目として盛り込んでいると神山氏は指摘する。これはトランプ政権発足前のことだ。

 中国政府は、北京的構造改革として、「中国製造2025」のほか「国営企業改革」や「金融システム改革」を盛り込んでおり、深セン的改革には「知的財産権強化」が含まれている。問題は、「中国は10年くれと言っていて、米国はすぐにやれと言っている」(以下、発言は神山氏)ことだ。

中国の改革(=日興アセットマネジメントKAMIYAMA Reports)

 中国の一人あたりGDPは未だ台湾の半分程度であり、経済発展は道半ばだ。技術習得による中所得社会は実現してきたが、独自の付加価値を付けた製品作りまでは至っていない。ここから先進工業国の一角入りを目指すという野心的な計画が「中国製造2025」だ。世界の工場として安くモノを作るという姿から、「付加価値が高くてこいつがいないと困る」というポジションへの移行を目指している。

 中国製造2025が計画通りに実現したときには、中国企業は付加価値の高い事業を行っており、つまり他が真似できない技術を持つステージに移行しているはずだ。中国は、このタイミングではしっかりと知財保護を行いたい。逆にいうと、現在の中国には守るべき知財がない。

 「中国製造2025で付加価値が付けられれば、自分たちの知財は守る」から、中国は10年待ってほしいと言っているわけだ。

 このような時間軸の違いから、「中国は(交渉を)引き伸ばしていく、これが本質的な戦略」だと神山氏は見る。

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