台風15号の朝、「振り替え輸送」が実施されなかった理由杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2019年09月20日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 9月9日未明、令和元年台風15号が関東地方を直撃した。公共交通各社は雨風が強くなった前日から終電などを繰り上げて対処。翌日は計画運休を実施した。しかし運行再開時刻が予定より大幅に遅れたため、通勤通学時間帯は大混乱と報じられた。

 計画運休について、JR東日本は始発から午前8時まで、他社もほぼこれにならう形になった。しかし実際は線路障害の発生や安全確認作業が予想以上に手間取り、運行再開は午後、あるいは夕方など大幅に遅れた。成田空港が“陸の孤島”と大きく報道された。鉄道は千葉県房総半島の被害が大きく、9月19日現在、JR久留里線は全線不通、小湊鐵道も一部区間で不通のままだ。

 混乱の原因の一つに「振り替え輸送がなかった」という声があった。

 なぜ振り替え輸送が実施されなかったか。あるいは、なぜ振り替え輸送が実施された路線と実施されない路線があり、各鉄道会社の足並みがそろわなかったか。振り替え輸送の仕組みから解説する。

9月9日の朝、鉄道各社は始発から計画運休を実施した(写真:ロイター)

振り替え輸送は自動的には行われない

 振り替え輸送とは、路線に輸送障害が発生したときに、あらかじめ定期券や乗車券を所持する利用者に対して「他社の経路外路線の無償利用」を実施する制度だ。輸送障害の原因は人身事故、車両故障、停電などだ。

 残念なことに首都圏ではほぼ毎日のように輸送障害が発生し、運休時間が長引く場合に振り替え輸送が行われる。だから、運休=振り替え輸送実施、と結び付けて考える人は多いだろう。今まで当たり前のように「A社の路線が止まればB社の路線で」「B社の路線が止まればA社の路線で」と振り替え輸送が実施されてきた。しかし、これはあらかじめ取り決められたわけではなく、路線が止まったら自動的に発動する仕組みでもない。

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