セブン銀行は新サービス「ATM受取」のシステムをホスティング型プライベートクラウドに構築した。それまではオンプレミスのインフラを利用してきた同社がプライベートクラウドを選択した理由と、その効果に迫る。
全国に2万4000台以上のATM(現金自動預け払い機)を擁するセブン銀行と、子会社のセブン・ペイメントサービスは、2018年から企業と消費者間の送金サービス「ATM受取」を提供している。これはコンビニエンスストア「セブン-イレブン」内にあるATMと店舗レジを利用して、消費者が企業からの送金を受け取れるようにするサービスだ。2019年5月時点で、同サービスの顧客企業は保険会社やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)提供企業など、158社を超える。セブン・ペイメントサービスはセブン銀行の資金移動を専門とする子会社で、顧客対応をはじめとしたATM受取の運営はセブン・ペイメントサービスが担当している。
セブン銀行は取引内容や顧客情報を管理するATM受取の中核システムを、プライベートクラウドに構築した。このプライベートクラウドは、オンプレミスのインフラをクラウド化した狭義のプライベートクラウド(「オンプレミス型プライベートクラウド」とも)ではない。クラウドベンダーが運用するクラウドインフラの一部を特定のユーザー企業が専有する「ホスティング型プライベートクラウド」だ。
既にセブン銀行は、自社データセンターでオンプレミスのインフラを構築し、運用している。にもかかわらず、ATM受取用のインフラとして既存のオンプレミスではなく、ホスティング型プライベートクラウドを選んだ理由とは何だったのだろうか。
セブン銀行はATM受取のシステム構築に当たり、顧客企業の情報や取引の明細情報を管理する取引管理システムと消費者への送金システムを含む、ATM受取の中核システム群を新たに構築する必要があった。同社ATMソリューション部の酒井義男氏によると、オンプレミスのインフラで運用しているのは、預金情報を管理する勘定系システムといった「2000年ごろから稼働させている重厚長大なシステム」だという。これらのオンプレミスシステムは信頼性を重視して構築してあるため、大きなトラブルも起こさず安定稼働を続けている。半面、新しく大掛かりな改修を加えることが難しい。
オンプレミスのインフラは、迅速かつ容易にハードウェアリソースを増減させるのが難しい。このことは、ニーズの予測が困難な新事業のシステムのために用意するインフラとしては難点だった。そのためセブン銀行が検討したのが、クラウドを利用してATM受取のシステムを構築し運用することだった。
セブン銀行はインフラの選定において、24時間365日システムを稼働できる安定性と信頼性を重視していた。2016年4月から、IaaS(Infrastructure as a Service)形式で提供されている複数のパブリッククラウドで、ATM受取のシステムのテスト版を稼働させ、各パブリッククラウドの運用のしやすさと安定性、信頼性を検証・比較した。当時のパブリッククラウドでは、ベンダー都合のシステムメンテナンスを含むシステムの予期せぬ停止が少なからず発生しており、安定性の面では納得のいくサービス品質ではなかったという。
安定稼働を重視してインフラ選定を進めたセブン銀行は、最終的にパブリッククラウドよりもユーザー企業ごとの要望を反映しやすい、ホスティング型プライベートクラウドの利用を決定した。運用に当たりクラウドであっても一定の安定性が得られるようにシステムの冗長性を確保し、OSを自動でバージョンアップしないなどの対策を取った。
セブン銀行は採用に至ったクラウドベンダーの名称を明らかにしていないが、もともと同社のオンプレミスインフラの運用管理を担当していたベンダーを選定したという。オンプレミスのインフラとほとんど変わらないサポート体制のまま、クラウドならではのスケーラビリティを実現できるメリットを評価した。
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