AIは人間の仕事を奪うのか――AIをめぐる議論の中で、最も古く、最も頻繁に言及される問いの一つではないだろうか。
AIではないが、ロボットという言葉を生んだ戯曲「R.U.R.」(チェコの作家カレル・チャペックによる1920年の作品)は「ロボットが人間に対して反旗を翻す」というストーリーだ。人間は100年近く前から「機械が私たちに取って代わるのではないか」という不安を抱いてきたといえる。
R.U.R.発表から1世紀が経とうとしている今も、幸いにして私たちは機械に乗っ取られていない。また本連載の第6回で解説したように「強いAI」、すなわちどのようなタスクも実行できる汎用的なAIの登場は、しばらく先の話になりそうだ。
とはいうものの、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授らが2013年に発表した論文「雇用の未来(The Future of Employment)」(The Future of Employment)を筆頭に、人間の仕事が徐々に機械に置き換わるという予測が相次いで登場している。実際に「こんな仕事をできるAIが登場した」というニュースを耳にすることも多くなってきた。そこで今回は、AIと人間の仕事の関係について整理してみたい。
※:702の職業を対象に、それぞれの職業が「将来コンピュータ化される確率」を算出し、ランキング形式で整理するという内容
いまや毎日のようにAI(人工知能)の話題が飛び交っている。しかし、どれほどの人がAIについて正しく理解し、他人に説明できるほどの知識を持っているだろうか。本連載では「AIとは何か」といった根本的な問いから最新のAI活用事例まで、主にビジネスパーソン向けに“いまさら聞けないAIに関する話”を解説していく。
(編集:ITmedia村上)
仕事を奪うという側面ばかりに注目が集まりがちなAIだが、当然ながらそれを誰かが研究・開発・運用する必要があるため、短期的にはAI関連の仕事が増えることが予想される。
これをAI展開の流れにおける「準備期」と考えてみよう。実際に、世界ではAI展開が進んだことでAIに関わる人材の争奪戦が起きており、その不足が懸念されている。
例えば前回の記事でも触れた、政府が掲げる「AI戦略2019」では、AI人材を「最先端のAI研究を行う人材」「AIを産業に応用する人材」「中小の事業所で応用を実現する人材」「AIを利用して新たなビジネスやクリエーションを行う人材」などに分けて紹介している。
そしてこれらの人材育成を進める必要があるとし、「多くの社会人(約100万人/年)が、基本的情報知識と、データサイエンス・AI等の実践的活用スキルを習得できる機会をあらゆる手段を用いて提供」することや、「地域課題等の解決ができるAI人材を育成(社会人目標約100万人/年)」するといった目標を掲げている。程度の差はあれ、他にも多くの国々が、同様のAI人材育成を政策として進めている状況だ。
急速にAI人材を増やすとなれば、教育できる人材をそろえたり、最新の理論やスキルを学べるコンテンツを開発・提供したり、企業内でAI人材育成・獲得・維持の戦略を練ったりする必要が生まれる。人が足りないなら、少ない人材でも求める目標を達成できるように市販のAIプラットフォームを活用したり、AI自体にAIの開発・運用を支援させたり、ワークフロー全体を管理させたりする工夫も進むだろう。そこでも専門知識を持つ人材は必要だ。
マシンパワーが生み出すAIが本格的に活用され、人間の仕事を奪う時代が到来するためには、想像以上に大量のマンパワーが求められるだろう。
いち企業における仕事(従業員数)という観点で見た場合、この時期は社内で既存の人材が「AI人材化」(図の領域B)すると同時に、不足分が社外から調達される(図の領域C)と考えられる。一時的には、トータルの従業員数は増えるかもしれない。
もちろんAI化を既存の人材でまかなう(従業員数を増やさない)ことも考えられるが、社内業務をAIに置き換える場合には、業務遂行に必要な知見を持つ現場の担当者が「知見のAI化」に協力する必要がある。
既存業務を回しながらAIの教育もこなすのは困難なので、外部の専門家を雇うなどの対応は避けられないだろう。
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