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それは人類にとって脅威なのか 「強いAI」について考えるよくわかる人工知能の基礎知識(1/3 ページ)

» 2019年06月19日 09時40分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 これまでの連載では、現在AI(人工知能)と呼ばれているものを実現する技術について考えてきた。ここからは少し方向性を変え、AIをめぐる議論に焦点を当ててみたい。まずは「AIとは何か」を考える上で避けることのできない「強いAI」(Strong AI)と「弱いAI」(Weak AI)という概念について考えてみよう。

連載:よくわかる人工知能の基礎知識

いまや毎日のようにAI(人工知能)の話題が飛び交っている。しかし、どれほどの人がAIについて正しく理解し、他人に説明できるほどの知識を持っているだろうか。本連載では「AIとは何か」といった根本的な問いから最新のAI活用事例まで、主にビジネスパーソン向けに“いまさら聞けないAIに関する話”を解説していく。

(編集:ITmedia村上)

「強いAI」とは何か

 私事で恐縮だが、3年前に子供が中学受験をした際、複数の学校の説明会に参加する機会があった。それぞれ特徴のある学校だったが、説明会の中で異口同音に「AIによって人間の仕事はなくなるかもしれない」という未来が語られていたことが印象に残っている。

 当時はちょうど、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授らが2013年に発表した論文「雇用の未来」(The Future of Employment)が日本でも話題を集めていた。

 この論文は、702種類の職業それぞれが「将来コンピュータ化される確率」を算出し、ランキング形式で整理したもの。そんな中で、各校が「皆さんのお子さんが大人になるころには、AIによって人間の仕事はなくなっているかもしれない。であれば、いまどのような教育をすべきか」と説いていたのである。

 学校教育の場でも、人間の職業がAIに代替される可能性について語られるようになったのかと驚かされた。

 こうした若干センセーショナルな議論に登場するのが、「どんな仕事でも人並みに、場合によってはそれ以上のレベルでこなせるAI」である。そのような汎用的能力を持つAIは、「強いAI」と呼ばれることがある。まるでSFに登場するような万能ロボットが登場して、人間の仕事を次々に奪うというわけだ。

 本連載の第1回で触れたように、強いAIは米国の哲学者ジョン・サールが1980年に定義したとされる。彼は「Minds, Brains, and Programs」(心・脳・プログラム)と題された論文で、次のように主張した。

 人間の認知能力をコンピュータ上でシミュレーションする近年の取り組みに、どのような心理学的・哲学的意義を与えるべきだろうか? この質問を考える場合、私が「強い」AIと呼ぶものと、「弱い」もしくは「慎重な」AIと呼ぶものを区別することが有益だろう。

 弱いAIによると、心の研究におけるコンピュータの主な価値は、コンピュータが非常に強力なツールを提供してくれることだという。例えばコンピュータを使うことで、仮説をより厳密かつ正確に構築・検証できる。

 強いAIでは、コンピュータは単に心を研究するための道具ではない。適切にプログラミングされたコンピュータは、文字通り他の種類の認知状態を理解し、保持しているという意味において、むしろ「心」そのものなのである。強いAIでは、プログラミングされたコンピュータは認知状態を持っているため、プログラムは心理学的説明の検証を可能にする単なるツールではなく、むしろプログラム自体が説明そのものになるのである。

 彼は、人間の心を研究する際にコンピュータをどう使うかのアプローチを説明するために、強いAI、弱いAIという言葉を用いた。弱いAIのアプローチでは、コンピュータは心を研究するための補助的なツールで、強いAIのアプローチでは、コンピュータが「心」そのものになるようプログラミングするという。どんなタスクを実行できるかよりも、学術的な意味での「人間が持つような意識」を持つかどうかが強いAIとっては重要なのだ。

 しかし最近は、強いAIを「どのようなタスクでも実行できる汎用型人工知能」(AGI:Artificial General Intelligence)という意味で使うケースが増えてきた。この場合、弱いAIは「特化型AI」「専用AI」などと表現される。

 前置きが長くなってしまったが、今回の記事では昨今メジャーになっている「汎用的なAIという意味での強いAI」について考えてみたい。

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