日本を代表するジャーナリスト、田原総一朗氏。テレビ朝日の「朝まで生テレビ!」は、政治家から識者、視聴者を巻き込んだ論争を常に喚起してきた。そんな彼が今、夏の参院選を前に提起しているのが憲法改正問題だ。
日本国憲法9条2項は、戦力と交戦権の保持を否定している。一方で日本には自衛隊という世界有数の“軍事力”がある。戦後長らく結論が出ずに棚上げされてきた問題に、田原氏は「今の憲法と自衛隊の存在は矛盾している」と言い切る。
4月には、法哲学の第一人者である井上達夫・東京大学教授と、国連などで紛争解決の現場に携わった伊勢崎賢治・東京外語大学教授と共に『脱属国論』(毎日新聞出版)を世に問うた。いずれも改憲を主張する第一線の論客だ。
今夏の参院選で安倍政権は公約に「自衛隊の明記」などの改憲案を盛り込んでいるが、田原氏はこの案に対しても批判的だ。85歳の田原氏はなぜ今、改憲問題に切り込むのか。田原氏自身がITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。
――今回の著作で田原さんたちは、戦力と交戦権を否定している憲法9条2項の撤廃や、日米安全保障体制の在り方の見直しを論じています。選挙の争点の1つとはいえ、多くの国民にとっては税金や年金問題などと比べて、「実感がわきにくい」話ともいえる改憲論議に、なぜこだわるのですか?
田原: つまりはね、今の憲法と自衛隊の存在は、明らかに矛盾しているんですよ。大矛盾です。
自衛隊ができたのは1954年。自由党と日本民主党が一緒になって自民党になったのが55年です。最初の総理大臣が鳩山一郎。鳩山さんは自主憲法を想定し、憲法を改正しようとしていた。「自衛隊と憲法は矛盾しているから変えよう」と。その次の(短期間だった石橋湛山首相を挟んで)岸信介さんも憲法改正(論者)でした。
ところが、その次の(首相の)池田勇人さん、佐藤栄作さんと誰も憲法改正を言わなくなった。「なぜだ、ごまかしているよ」と思い、71年かな? 宮沢喜一さんに聞いたの。「なぜ池田さん以降は、憲法改正と言わなくなったのか」と。
宮沢さんの説明が非常に分かりやすくて、僕は同感しました。宮沢さんは「日本人というのは、自分の体に合った服を作るのは下手だ。(ところが)押し付けられた服に体を合わせるのはうまい」と。“自分の体に合った服”を作ろうとして、満州事変、日中戦争、大東亜戦争(太平洋戦争)と、いずれも失敗した。
――本著でも「第一次世界大戦の後、日本はヨーロッパのまねではなく、主体性が必要になった」と論じています。戦争の道を選んで失敗した戦前と逆に、戦後の日本は良くも悪くも「押し付けられた」体制の下、平和を維持したということですね。
田原: 「押し付けられた服」というのが憲法です。46年、アメリカが憲法を押し付けた。そこで日本政府は、「こんな憲法を押し付けたのだから、日本は自分の国を守るわけにいかない。だから日本の安全保障はアメリカが責任を持て」とした。憲法を逆手にとって、アメリカの戦争に日本が巻き込まれない(ようにした)。
65年、ベトナム戦争(注:米国による北爆開始)が起きる。佐藤栄作首相の時です。アメリカが「日本よ、ベトナムで一緒に戦おう」と言うわけ。日本は対米従属だから、「ノー」と言えない。そこで、「もちろんベトナムに行って一緒に戦いたい。しかし、あなたの国がこんな難しい憲法を押し付けたから、戦いに行けないじゃないか」と。それ以降、憲法を逆手にとってアメリカの戦争に一切巻き込まれず、平和や安全保障はアメリカに責任を持たせる。これが「宮沢理論」です。
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