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事故物件、特殊清掃…… “死のリアル”になぜ私たちは引き付けられるのか目を背けたくなる現実(1/4 ページ)

» 2019年06月19日 07時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

 住人が自殺や病死などを遂げた部屋を指す「事故物件」。遺体が運び出された後の部屋をきれいにする「特殊清掃」。かつてあまり大っぴらに語られてこなかった、こうした「死」にまつわる話に注目が集まっている。特殊清掃は漫画やドラマの題材になり、大島てるさんの「事故物件公示サイト」も話題になっている。

 いずれも背景にあるのは、孤独死という深刻な社会問題だ。いかにも死から意識が遠のいたように見える今の日本人が、こうした話題に引き付けられるのはなぜか。怖いもの見たさなのか、それとも切実な理由なのだろうか。

 話を聞いたのは、葬儀の在り方や高齢者問題などを取材してきた、毎日新聞社会部編集委員の瀧野隆浩さんと、孤独死や特殊清掃のルポを発信するフリージャーナリスト、菅野久美子さん。対談の前編では孤独死に焦点を当て、「独りで誰にも迷惑を掛けず、あなたは死ねるか」に迫った。

 後編では、なぜ私たちがこうした目をそらしたくなる「死の現実」に関心を抱くのか、2人のジャーナリストの視点から考える。

photo 特殊清掃の現場で清掃業務に取り組む担当者(画像提供:武蔵シンクタンク)

世間の人は「死を垣間見たい」?

――世間では事故物件や特殊清掃、孤独死といった「死の現実」を扱ったコンテンツに注目が集まっています。そもそも2人はなぜこのテーマを取材するようになったのですか?

瀧野: 私は1989年、サツ回り(警察担当)をしている時にお墓について取材したのがきっかけです。新潟県の巻町(現新潟市)に、永代供養のための「集合墓」という物ができた。当時、子どものいない女性は墓を持てなかったのです。そういったシングルの女性を救う運動として取材しました。

photo 瀧野隆浩(たきの・たかひろ)。毎日新聞社会部編集委員。1960年、長崎県生まれ。防衛大学校卒。社会部記者として宮崎勤事件などを担当。『サンデー毎日』編集次長、本紙夕刊編集次長などを経て現職。自衛隊などに加え家族の病理や高齢者問題を取材。著書に『宮崎勤精神鑑定書』(講談社)、『自衛隊のリアル』(河出書房新社)など。

 その後、91年ごろから(火葬した遺骨を埋葬せずにまく)「散骨」というスタイルが始まった話を、たまたま取材しました。振り返ると、これらが葬儀の在り方を変えるエポックメーキングな出来事だったですね。当時、私が取材していた方向に今、世の中も動いていると感じます。

菅野: 私の方はもともと死について興味があったわけではないのですが、人の紹介で大島てるさんに取材する中で、事故物件という物を知りました。若い女の子が(事故物件のトークイベントで)「キャーッ」と言っているのを見て、みんな興味があるんだなと感じました。

 大島さんのサイトは、事故物件を隠そうとする不動産の管理会社などに対し、その情報をオープンにしていくという物です。大島さんが「実際に事故物件を見なければ駄目でしょう」と言うので、最初に行ったのが東京都江東区にあるUR賃貸住宅でした。

photo 菅野久美子(かんの・くみこ)。フリーライター。1982年宮崎県生まれ。大阪芸術大学卒。出版社の編集者を経て2005年から現職。孤独死や性にまつわる記事を多数執筆。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)など。

 そこは目張りされていてさほど臭わなかったのですが、次に行った物件ではフロア中が臭っていました。初めて“死臭”という物を嗅ぎましたね。そうやって大島さんの紹介から事故物件や特殊清掃の業者さんにつながっていき、孤独死について取材するようになりました。

大島さんのサイトに関心を寄せる人は多いです。事故物件や特殊清掃への世間の注目は、「怖いもの見たさ」のような部分もあるのでしょうか。

菅野: 「死をちょっと垣間見てみたい」という気持ちがあるのかもしれません。よく、「死臭はどんな臭いですか?」と聞かれますね。

 事故物件については、「自分が当たりたくない」ということだと思います。「人が亡くなった部屋に、何も知らないまま住みたくない」という。

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