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RPAは「なし崩し的に導入しろ」──“しくじり先生”が語るRPA失敗談とその教訓

» 2019年06月11日 07時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

 「ROI(投資対効果)の高い業務全体にRPA(ロボティックプロセスオートメーション)を導入し、全社で働き方改革を進めよう」──このようにRPAを導入したら「しくじった」と語るのは、「いちばんやさしいRPAの教本」(インプレス)の著者で、人材紹介サイトを運営するディップ(東京都港区)執行役員の進藤圭さんだ。RPAをいきなり業務全体に大きく適用するのは危険だという。

こんなRPA導入はしてはいけない

 進藤さんは、6月7日に開催された「RPA DIGITAL WORLD TOKYO 2019」の講演で、自身が直面した「RPA導入のしくじり」とそこから得られた教訓を語った。

RPAは「なし崩し的に導入しろ」

人材紹介サイトを運営するディップ執行役員の進藤圭さん

 「まずはROIの高い業務全体にRPAを導入してみよう」──一見すると正しいように思える進藤さんのやり方は、何が間違っていたのか。いきなり業務全体にRPAを導入しようとしても成果物が完成せず、経営者と現場の両方から厳しい視線にさらされるという。

「(このような導入をして)何が起こったのでしょうか。成果が出ないまま半年が過ぎると、まず経営陣が怒り始めます。成果物が出てこないので、現場も業務改革に動こうとしません」(同)

 いきなり大きなプロジェクトをやろうとすると、いつまで立っても成果が見えず評価もできないという問題が起きる。そこで進藤さんが工夫したのは「成果の方から手を付ける」ことだったという。

業務フロー全体にRPAを導入できたらいいが、大規模プロジェクトになってしまい、いつまで経っても成果が出てこなくなってしまう

 前回の反省を生かし、ディップがあらためてRPAで手を付けたのは、企業の求人情報の更新だった。同社では人材紹介のために各企業の求人を従業員が定期的にチェックしていたが、この作業をRPAに置き換えた。

 RPAの作業内容は、求人の更新情報をチェックして更新があればメールで通知するだけのもの。ちょっとした作業ではあるが、経営陣や現場にとっては成果が見えやすい。「このように3〜5分程度で終わる業務であればすぐにロボットを作れるため、失敗しません」(同)

 このような小さな業務の置き換えには、すぐに成果を出せる他にも「これまでの仕事の流れを変えなくていいため、そのまま現場に導入しやすい」というメリットがある。

 進藤さんは「業務全体の働き方改革はカロリーがかかり過ぎる」とした上で、「まずは小さく始めて、現場の人間が『気付いたらRPAを使っていた』と思えるような、なし崩し的な導入をすることが大事です」とRPA導入のコツを語った。

「RPAとかAIとか言うな」

いきなり「RPA」や「AI」と言っても通じない

 「なし崩し的な導入」のためには、「ついつい言いたくなるんですが、現場に説明する上で『RPA』や『AI』などの言葉は使ってはいけないんです」と進藤さん。

 進藤さんは「普通、一般の従業員の意識は『RPAなんて知らんし』くらいのものです。社員総会で『RPA』『AI』という言葉を使ってみたが、社員からは『ラップ?』『歌手のAIさん?』というような反応がありました」と苦笑する。

 突然新しい言葉を使っても、多くの人にとってはなかなか受け入れられない。では、どう説明したらいいのか。進藤さんは、誰でも知っている「業務改善」という言葉を使うことを勧めた。

RPAは環境作りのきっかけにすぎない

 進藤さんは、あらゆる業務をロボットで置き換えようとは考えていない。業務を改善する上で、RPAは手段の一つにすぎないからだ。

自動化したい業務によってどの手段が適切か変わってくる

 「月10万円くらいの費用感であれば、判断不要でRPAを導入してみていいでしょう。100万円程度かかるなら、判断した上でAIの導入もありえます。一方で、自動化が難しい分野に関してはアウトソーシングの選択肢もあります。そもそも『やる必要があるのか』を考え、必要がないならやめてしまいましょう」(同)

 「RPAが成果を出し始めると、役員が突然『全部RPAでやろうよ』というようなことを言い出すタイミングがあるんです」と進藤さんは「経営陣あるある話」を紹介。しかし、RPAの役割を冷静に見極めた上で次のように話す。

突然「RPAで全部やろう!」と言い出す役員

 「そもそもシステム化するべきなのにされていないなら、専用アプリを作るなどするべきです。名刺管理の自動化にOCRとRPAを使わなくても、Sansanの名刺管理システムを入れればいいはず。電子契約の自動化にExcelとRPAを使おうとした人もいましたが、kintoneのシステムを使えば済みます」(同)

 進藤さんが言うように、新規システムの開発や既存のアプリケーションを活用できるなら、わざわざRPAやAIなどに頼らなくても済むはずだ。

 進藤さんは「業務をデジタル化するなら、RPAだけではなくシステムやASP(アプリケーションサービスプロバイダ)をどんどん使えばいいと思います。そしてユーザーである現場の担当者(の意識)が変わっていくのを待つのが、業務改善の正しい姿なのではないでしょうか」と語った。

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