IT業界で常態化している多重下請けが、日本のソフトウェア開発を米国や中国よりも遅れさせ、かつ、優秀なエンジニアが育たない状況を作り出している――。こんな危機感を持って、業界の構造改革に向けて取り組んでいるのが、東京都渋谷区に本社がある情報戦略テクノロジーだ。高井淳社長に多重下請け構造の問題点を、前編(IT業界の「多重下請け地獄」が横行し続ける真の理由)で具体的に指摘してもらった。
高井社長はIT業界で1次請けから3次請けまで経験している。その経験から、業界の構造改革のためには、企業の事業部門と直接ビジネスをする「0次請け」と、エンジニアのスキルシートの統一化が必要だと訴えている。
後編では、情報戦略テクノロジーが進める具体的な取り組みを、高井社長に聞いた。
――情報戦略テクノロジーが進めている0次請けとは、どのような取り組みなのでしょうか。
高井氏:米シリコンバレーや中国で行われているのと同じ、アジャイル方式でシステムを開発します。アジャイル方式ではシステムの企画担当者とエンジニアが直接コミュニケーションを取ります。1次請けを飛び超え、企業の企画担当者のところに直接エンジニアを送り込み、一緒に開発していくので、0次請けと呼んでいます。
多重下請け構造ができているために、企業には新しいソフトウェアを作るノウハウがありません。新たなECサイトを作ろうと考えて、1次請けの企業に依頼すると、高額な料金を提案されます。それなら自前で作ろうと考えますよね。そこで当社に所属するエンジニアが、企業の担当者と一緒にゼロから作っていくのです。
当社は10年ほど前から、企業でシステムの企画を担当する事業部門と折衝することで、0次請けでの開発を売り込んでいました。最近は、企業の側から0次請けを探す動きも出始めています。
――前編(IT業界の「多重下請け地獄」が横行し続ける真の理由)では、3次請け以下の企業ではエンジニアが育たないと話していましたが、エンジニアをどのように確保しているのでしょうか。
高井氏:2次請けの大手企業には、優秀なエンジニアがいます。ただ、エンジニアとして働くのは30歳くらいまでで、その後はプロジェクトマネジャーになり、管理職になっていきます。エンジニアとして技術を極めたいと考えても、社内にはその場はなく、転職するにも3次請け以降の会社しかありませんでした。
こういう人たちの受け皿になるのが0次請けです。優秀なエンジニアが能力を発揮できるように、当社が新たな組織構造を作っているのです。その結果、2次請けから転職する人も年々増えています。クライアントが1カ月あたり1人のエンジニアに支払う金額は、3次請けのエンジニアで高くても70万円でしたが、0次請けによって100万円以上支払うケースが次々と出てきています。
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