借金を返せなくてもヤクザは来ない集中連載 新型コロナで経済死しないための方法 (1/3 ページ)

» 2020年05月29日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 資金繰りに行き詰まり、お金が払えなくなったらどうなるか? 「ナニワ金融道」張りの怪しい面々にあの手この手でハメられたり、暴力団がやってきて昼夜を問わずドアをたたかれたりするのではないかと想像する人がいるかもしれないが、それはもう過去の話である。

 社会システムの大きな流れは、債務者保護が極めて重要なトレンドとなっており、もはやヤクザの圧迫的な取り立てを許すことはない。ただし、「浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」とも言うように、いつの世にも、悪いことを考える輩はいる。少数とはいえ新たなリスクは常にあるのだ。ただそれらが放置されて幅を利かせる時代は終わったのだ。

 ここから先の、普通の人が全く知らない債権回収の世界の大変化を、筆者にレクチャーしてくれたのは、全国サービサー協会初代専務理事の森本浩さんだ。ここに改めて深謝を申し上げたい。

債権管理回収業に関する特別措置法の背景

 1999年2月「債権管理回収業に関する特別措置法」が施行され、これが大きな分岐点になった。米国の制度に範を取って設計されたこの法律を特徴付けているのは、債権管理回収の現場から反社会的勢力(暴力団)を徹底的に排除する方策を、官民と士業が三位一体となって作り上げたことだ。その根底には「債務者」の権利を守り、「一度の失敗で起業家を破滅させない」「再チャレンジできる」国づくりという思想が流れている。

 中小企業庁の16年の調査によれば、日本の全企業数の内、99.7%が中小企業であり、企業従業員の内、約7割が中小企業に勤めている。つまり、これら中小企業を適切に守ることは日本経済にとって重要な課題だということだ。

1999年に施行された「債権管理回収業に関する特別措置法」が大きな分岐点になった(イメージ 写真提供:ゲッティイメージズ)

 さて、この法律の意味を理解するためには、それ以前の実態がどんなものだったかから話を進めなくてはならない。バブルがはじけ、不動産などが暴落したことによって、金融機関では貸し出し金額と担保価値が釣り合わなくなる、バランスシートの毀損(きそん)が多発しており、こうした膨大な不良債権の処理に暴力団が介入して資金源化することが深刻な社会問題となっていた。

 キーになったのは弁護士法である。本来、債権の回収は、当事者以外は弁護士にしか行えず、しかも、裁判を伴うケースも多いことから、一度焦げ付いた債権の回収は、多額の費用と時間を要するものだった。入金が遅れれば資金繰りを直撃する、債権側企業の事情にあまりにも則していない制度だったのである。

 債権側企業に資金的体力があり、かつ巨額の債権であれば、こうした正規の手続きを経てでも回収する意味がある。しかし、中途半端な規模の債権の場合、費用的にも時間的にも効率が悪過ぎる。分かりやすくいえば、弁護士の側も手間の割にもうからないからやりたくないし、債権者側も、貸した金(未回収代金なども含む)を返してもらうだけの単純な話なのに、手続き、費用、時間とあらゆる面で負担が大きすぎた。

 そのため、債権そのものを第三者に売り払うという方法が横行した。どうせ時間も金も手間もかかるなら、その分値引きして、とっとと売り払った方が現実的に得になる。極論をいえば、回収の可能性が低い案件に手間隙をかけて、結局取りっぱぐれるくらいなら、例え額面の1割でも売って回収した方がいい。

 これは制度設計の隙を突いたやり方である。しかも本来、この債権の買い取りにいたっては、法的には弁護士ですらできないという、まさに制度設計の不備が吹きだまった状況だったのだ。

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