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2020年は量子コンピュータ元年? 実用化の可能性やAIとの関係を考えるよくわかる人工知能の基礎知識(1/4 ページ)

» 2020年04月03日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 今回は、世界各国でその開発に巨額の資金が使われている「量子コンピュータ」とAIの関係を考えてみたい。量子コンピュータはさまざまな分野に影響を及ぼすといわれている。その活用事例を見る前に、まずは量子コンピュータとは何なのかを解説したい。

連載:よくわかる人工知能の基礎知識

いまや毎日のようにAI(人工知能)の話題が飛び交っている。しかし、どれほどの人がAIについて正しく理解し、他人に説明できるほどの知識を持っているだろうか。本連載では「AIとは何か」といった根本的な問いから最新のAI活用事例まで、主にビジネスパーソン向けに“いまさら聞けないAIに関する話”を解説していく。

(編集:村上万純)

量子の世界と量子コンピュータ

 量子コンピュータとは何かという話に入る前に、それを実現する土台となっている量子力学の世界を整理する。

 鉄や銅といった、何らかの物質を細かく分解していく作業を想像してほしい。よく説明に使われるのは水(H2O)なので、ここでも水を分解してみたい。しばらくすると、水という物質はこれ以上分解できないレベルに達する。これが分子だ。水の分子は、さらに小さな原子という単位によって構成されており、水の場合は水素(H)2個、酸素(O)1個の計3個の原子で成り立つ。

 特別な力を使って、この原子の内部をのぞけるとしよう。すると原子はさらに小さな単位である原子核と電子で構成されており、原子核は陽子と中性子から成ることが分かる。この原子や、それを構成する電子や陽子、中性子といったものを「量子」と呼んでいる。トライグループが公開している動画も参考になる。

 こうした量子がどのような特徴を持つのかを研究するのが「量子力学」で、その発展により、量子の世界には私たち人間が住む世界とは大きく異なる点があることが分かってきた。

 例えば、量子コンピュータに深く関係する重要な特徴の一つに、「状態の重ね合わせ」と呼ばれるものがある。私たちの世界では、ある空間に何かがある(1の状態)、それとも何もない(0の状態)という状況は同時には起こり得ない。

 そこにあるかないか、1か0かのどちらかだ。しかし量子の世界では「1でも0でもある」という状態、より正確に言えば「1から0にかけての状態が連続している」状態も起きるのである。つまり、それだけ多くの情報を重ね合わせて同時に表現できる。

 「量子もつれ」と呼ばれる現象がある。これは2つの粒子がもたらす現象で、量子もつれの状態にある2つの粒子の片方に何らかの影響が加わると、それがもう片方の粒子にも伝わるというもの。すぐ近くにある粒子間だけでなく、粒子が離れた場所にあっても「量子もつれ」が起きる場合がある。つまりある粒子が持つ状態=情報を、同じタイミングで別の粒子にも関連付けられることになる。

 こうした量子の特徴を生かすことで、多くの情報を重ね合わせたまま、並列で処理することが可能になる。それを実現したのが量子コンピュータだ。従来のコンピュータでは、最小の情報単位(ビット)が持つ値は0か1の2通りしかなく、それを順に処理していくしかなかった。それと比べれば、いかに量子コンピュータが高速で情報処理できる可能性を秘めているかが分かるだろう。

 例えば、2019年10月に米Googleが科学誌Natureに発表し、大きな注目を集めた論文では、同社が開発した量子コンピュータ「Sycamore」が、従来のスーパーコンピュータが処理に1万年を要する演算を、たった200秒で行うことに成功したと主張している。

量子コンピュータ実用化への期待

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