「欅坂46や乃木坂46は“ディスラプター”」――DX戦略とアイドル戦略の意外な共通点とは週末エンプラこぼれ話(1/2 ページ)

企業はデジタルトランスフォーメーションによってビジネスが変わりつつある。その戦略は、乃木坂46やAKB48などのアイドルの戦略に似ていると安藤類央氏は話す。共通点とはどのようなものなのだろうか。

» 2020年03月27日 07時00分 公開
[重森 大ITmedia]

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 「DX(デジタルトランスフォーメーション)の正体は知識の奪い合いだ」

 そう語ったのは、国立情報学研究所の安藤類央氏(サイバーセキュリティ研究開発センター 特任准教授)だ。DXによりビジネスの世界はどう変わってしまうのか。生き抜くためにどのように考え、どのように振る舞うべきなのか。アイドルの戦略を引き合いにして、DX時代を生き残る術を探る。

新しいアイドル像と対比して、DXにおけるディスラプターに対する姿勢を示す

国立情報学研究所の安藤類央氏

 「日本の事業の柱が変わってきた」と安藤氏が語り始めたのはITmediaエンタープライズセキュリティセミナーの「昨今のアイドルとDXに共通する経営論 〜ダイヤモンドからヒスイの時代へ〜」セッションでのことだ。

 昨今の日本はインバウンド需要を支えにして観光業が伸びてきているという。かつては「技術立国」「ものづくり大国」を自負してきたが、今では製造業よりも観光業の方が高い成長率を誇る。そして現在の観光業は、「情報経済」の市場である。

 「工業経済は、技術を持つ少数の企業が市場を支配する寡占型でシェアが緩やかに変化していました。終身雇用も、市場の安定を反映したものでした。しかし情報経済は独占型です。市場の覇権は、優れた技術を持つ新興企業の登場であっという間に変わります。実は同じような変化が、アイドル業界にも起きていたのです」(安藤氏)

 安藤氏によれば2005年くらいまでのアイドル市場は寡占型だったという。そこに「AKB48グループ」(AKB48やSKE48、NMB48など)や「坂道グループ」(乃木坂46、欅坂46、日向坂46)が現れた。彼女たちがアイドル業界を席巻したことは、アイドルに興味がない人でも知るところだろう。安藤氏はアイドル業界におけるAKBグループや坂道グループを、DXによるディスラプターに例えた。

 「欅坂46は、AKB48や乃木坂46を上回る人気で、デビュー最速東京公演(2019年12月段階)を実現しました。日向坂46は、女性アーティストのデビューシングル販売枚数で初週記録を更新しました。ももいろクローバーZががんばって10万枚売るところを、日向坂46は最初の週だけで約47万枚売り上げたのです。情報経済の市場でも同じことが起きています。アメリカの小売業はおよそ100年かけて現在の形態にたどり着きましたが、中国はアリババが登場して30年で同じ進化を実現しました」(安藤氏)

 中国経済はかつて多くの面において先進国の後じんを拝していたが、見方を変えれば足かせになるようなレガシーな遺産を持っていなかった。「負の遺産がない分、最先端のテクノロジーを採用しやすく、一気に世界最先端級の小売業モデルを構築できた」のだと安藤氏は言う。

 「DXとは知識、データの奪い合いだ。100年続いた人間至上主義から、データ至上主義への変化だ。昔のように戦争で土地を侵略する必要はない。知識や情報を奪い、生かせる者が勝つ」(安藤氏)

 一方で情報や評判は、自由になりたがっているという。データ至上主義の世界では、情報漏えいを完全に防げない。秘密が増えれば増えるほど管理コストは増え、脆弱(ぜいじゃく)になっていく。

 「そこで参考にしたいのが、現在のアイドルたちです。かつてのアイドルとは違い、秘密を抱え込むことはしません。自分の情報や写真は流出するものだと割り切っているのです。データフローとレピュテーションはコントロールできないものだという前提に立っています」(安藤氏)

 こうした市場で戦い生き抜いていくためには、予期しない変動を手なずけるレジリエンシー(靱性)が必要だ。ガラスのように脆弱でも戦えないが、ダイヤモンドのような剛性だけでも通用しない。ダイヤモンドは世界一硬い物質だが、結晶の面に沿って衝撃を与えれば割れてしまう。対してヒスイは、硬さという点ではダイヤモンドに劣るが、細かな繊維状の結晶が絡み合った構造になっており、割れることなく加工できる靱性を持っている。セッションタイトルにある「ダイヤモンドからヒスイの時代へ」とは、そうした変化を指しているのだという。

DXにまつわる2つの誤りを、アイドルの証言と重ねて説く

 DXを語る上で、大きな誤りが2つあると安藤氏は指摘する。そしてこれらの誤りも、アイドルグループとの対比で説明された。

 1つ目の誤りは、収益を上げるためには大きなデータがなくてはならないというもの。これは、高い収益を上げている企業がある程度の規模のデータを持っていることから生まれる誤解だという。アイドルに例えれば、人気を得るためにはルックスが良くなければならないという思い込みと同じだという。

 「確かに高い収益を上げているUberやFacebookは多くのデータを持っています。しかし彼らは、『自分たちがどれだけ多くのデータを持っているか』何て話はしません。たくさん持っているのが当然だし、数だけ多くても意味がないことを分かっているからです」(安藤氏)

 データをかき集めて「自分はこんなにたくさんのデータを持っている」と威張るのは、成金のようなものだと安藤氏は一刀両断し、再度アイドルを例に挙げた。

 「ゆうこすの愛称で親しまれている菅本裕子は、SNSで2万人のフォロワーを抱えていた当時にイベントを開催したら3人しか集まらなかったというエピソードを持つ。また、いじられキャラとして人気を得た元AKB48の指原莉乃は、地元である大分にいた当時はかわいいと自認していたと語っている。SKE48の須田亜香里に至っては、自分の名前を検索すると『須田亜香里 かわいくない』というサジェストが表示されるものの、それについてショックは受けていないと述べている」(安藤氏)

 つまり、かわいい子が人気を得ていることは、すなわちかわいくなければ人気を得られないということにはつながらないのだ。「同じくデータを多く持っている企業が成功していることは、データを多く持っていなければ成功しないということにはつながらない」と安藤氏は語った。

 続けて安藤氏が挙げた2つ目の誤りは、DX対応が急務となっている現在、タイミングを逃すことなくDXの波に乗らなければならないというもの。アイドルに例えれば、「AKB48グループや坂道グループが驚異的に拡大しているチャンスを逃すことなく、急いで加入した方がいい」という誤解と同じだという。

 「DXはスポーツではありません。よーいどんで始まるものでもありません。先に述べた通り、これは情報を奪い合う戦争であり、市場を研究して後から出てきた企業が勝つことも少なくありません」(安藤氏)

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