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「DXか死か」を迫られる自治体の現状――RPAへの“幻滅”が示す問題の本質とは?IT活用で変化する自治体の今(1/4 ページ)

» 2020年03月31日 08時00分 公開
[蒲原大輔ITmedia]

 デジタルガバメント、GovTech、EBPM(Evidence-based Policy Making)――行政のデジタル化・高度化に関するこれらの概念を聞いたことがあるだろうか。

 いま自治体において、デジタルトランスフォーメーション(DX)に注力する先進的な例が見られるようになり、大きな転換期を迎えている。今後10年間、DXに本腰を入れて取り組み続けたか否かで、自治体の明暗ははっきりと分かれることになるだろう。全5回に渡る本連載は、「ITの活用で変わる自治体」をテーマにお送りする。

デジタルガバメントで知られるエストニアの首都タリン

 私自身、新卒で品川区役所に入庁し、約5年8カ月ほど自治体職員として勤務した。役所には紙文化が根強く残っており、多くの行政手続は住民にとって不便だ。働く職員も非効率な作業に追われて、本質的な仕事に十分な時間を割けない現状を目の当たりにしてきた。

 これらの問題を解決するために、2016年からサイボウズへフィールドを移し、「住民にとって便利な役所」「職員が効率良く働ける役所」の実現を目指して活動している。本連載の第1回〜第3回は、前例のないIT活用に挑戦する自治体職員を支援してきた経験をもとに、自治体におけるDXの最前線に迫りたい。

人は減り、仕事は増える。自治体に突き付けられた「DX or DIE」

 まずは日本の自治体が置かれている状況を見ていきたい。自治体を支える職員の数は図1の通り、20年間で50万人以上が削減されたことになる。

(図1)地方公共団体の職員数の推移(出典:総務省)

 職員数削減が始まった1990年前後といえば、1989年に合計特殊出生率が過去最低の1.57を記録し、「1.57ショック」としてマスコミが大きく取り上げるようになった時期だ。

 このころから将来の人口減少に対する備えの必要性が社会的に認識されるようになり、各自治体においても生産年齢人口減少による税収減、福祉ニーズの増加に伴う支出増に備えるため、財政基盤の強化が要請された。職員数の削減は、こうした背景のもと人件費を抑制するために進められてきたのである。

 一方で、この間に自治体が担う仕事は増え続けている。介護予防、空き家対策、待機児童対策、鳥獣被害対策など、少子高齢化を始めとする人口構造の変化やライフスタイルの多様化によって自治体に求められる課題が新たに生まれているためだ。

 このように、職員数削減を進める一方で担うべき仕事が増えていることから、自治体職員1人当たりの仕事量は確実に増加している。「現在の人員では業務を持続出来ない」という悲鳴に近い声を現場の職員から聞くこともあり、効率的な行政運営は全自治体にとって喫緊の課題といえる。

 では、行政運営の効率化はどのように進められているだろうか。これまでの職員数削減は、事業の民間委託や、正規職員から非正規職員への業務移管など、アウトソーシング的な手法によって推進されてきた。

 ここ5年ほどは自治体職員数も横ばいで推移しており、業務の外部化による正規職員の削減も限界にきているといえるだろう。現在は次のフェーズとして、ICT活用による業務効率向上を目指す動きが目立つ。政府による働き方改革やDXの推進も、この動きを後押しする材料になっている。

 とはいえ、これまで全庁的にICTを活用して業務改革を進めた経験がある自治体は少ない。ましてや、紙媒体中心の業務プロセス・思考が既に浸透した組織において、デジタル化の改革を推進していくことにさまざまな困難が伴うことは想像に難くないだろう。

 一方で、そのような条件の下でもDXに成功しつつある自治体も散見されるようになってきた。中には職員数1万を超える自治体での成功例もあり、国内企業においても大いに参考になる知見が詰まっていると考える。本連載の第1回となる今回は、自治体が歩み始めたDXへの道のりとその現在地を示す。

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