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人口減少時代にリニアは本当に必要なのか?「スーパーメガリージョン」誕生の意義(1/4 ページ)

» 2020年03月28日 05時00分 公開
[武田信晃ITmedia]

 日本の人口は2008年の1億2800万人をピークに人口減少が続いている。国立社会保障・人口問題研究所によると30年後の2050年には1億人を割ると予測している。厚生労働省のデータによると1億人を下回るのは1966年以来だ。そうした状況下で東京と大阪を結ぶリニア中央新幹線は必要なのだろうか?

photo 山梨リニア実験センターで撮影した試験車両(ITmedia ビジネスオンライン編集部撮影)

東名阪を1つの都市圏にすると世界をリードする競争力を持つ

 まずは日本の経済状況を数字からひもといてみたい。厚生労働省が2019年12月に発表した人口動態統計によると2018年の出生率は3年連続減の1.42。人口が増加も減少もしない「人口置換水準」が2.07ということを考えると、人口増加を実現するにはほぼ不可能な数字だ。人口減少は日本の市場縮小をもたらす。

 そこで経済学者をはじめ有識者から注目されているのがリニア中央新幹線だ。

 リニア中央新幹線は東京と名古屋を最速40分、東京−大阪を67分で結ぶ。国土交通省の資料によると、リニアによって東名阪が1つとなる「スーパーメガリージョン」誕生によって人口7000万人の巨大な都市圏ができあがる。このスーパーメガリージョンによって、日本の国際競争力向上も期待できるのだ。

photo リニア開通で東京(品川駅)・名古屋間が最短40分に、東京(品川駅)・大阪間が最短67分に短縮され、約6500万人(国土交通省の資料では7000万人)の巨大都市圏が生まれる(JR東海のパンフレット資料より)
photo 東名阪が1つとなる「スーパーメガリージョン」誕生によって人口7000万人の巨大な都市圏ができあがる(国土交通省のWebサイト「人口減少にうちかつスーパー・メガリージョンの形成に向けて」より)

 JR東海のアニュアルレポート2019によると、東海道新幹線は1日あたり47.7万人が利用する。ロンドンとパリ、ブリュッセルを結ぶユーロスターは3万人、ボストンとワシントンD.C.を結ぶアセラエクスプレスが9000人、ニューヨークとシカゴを結ぶ航空路線は1.1万人と、東海道新幹線の輸送量は文字通り桁違いになっていることが分かる。

photo 東海道新幹線は世界の輸送機関と比較しても、圧倒的な輸送量を誇る(JR東海のWebサイトより)

 仮に東名阪エリアの人口が2割減ったとしても、桁違いの輸送量をもつことに変わりない。もっとも、東京都や愛知県などでは今でも人口が増加しており、今後、東名阪は他の日本のエリアに比べて人口減少のスピードが緩やかな地域だと予想されている。

 都市経済学の権威であるリチャード・フロリダ著の『クリエイティブ都市論』(ダイヤモンド社、2009年)によると、広域東京圏の人口は5510万人でLRP(夜間光量に基づく地域生産高)は2兆5000億ドルでトップ。大阪=名古屋圏が3600万人で1兆4000億ドル。合算すれば9110万人、3兆9000億ドルという経済圏ができあがる。国交省によると、リニアがカバーする人口は7000万人としており、統計算出方法の違いから誤差が生じているが、日本の過半の人口をカバーする都市圏であり、日本経済をけん引する「心臓部」であることに変わりはない。

 世界を見渡しても、ボストン−ニューヨーク−ワシントンD.C.の「ボス=ワッシュ」が人口5430万人でLRPが2兆2000億ドル、アムステルダムからアントワープの「アム=ブラス=トワープ」が人口5930万人、1兆5000億ドル、上海圏が人口6640万人でLRPは1300億ドルとなっている(いずれも2009年発刊の書籍に掲載されているデータのためあくまで参考値として考えていただきたい)。

 最近は香港−マカオ−広東省の「粤港澳大湾区」という構想もあり、香港経済代表部の資料(2016年)によると人口は6800万人。LRPは不明だが域内総生産(GDP)は1兆4560億ドルとなっている。これだけみてもリニア開通により誕生する都市圏は、ほぼ同じ人口であるにもかかわらず圧倒的な経済力を実現することが分かる。

 今後、日本はこれらのライバル都市圏との競争を勝ち抜いていかなければ、豊かさを享受することが難しくなっていく。世界的に著名な経済学者のエンリコ・モレッティ氏も著書『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』(2014年、プレジデント社)で、「21世紀は人的資本をどれだけ引き付けられるかをめぐって、競争がおこなわれるようになる。そのような時代には、場所の重要性がかつてなく強まる」と指摘する。

photo 粤港澳大湾区の衛星図(Wikipediaより)
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