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なぜクラウドではダメなのか? いま「エッジAI」が注目されるワケよくわかる人工知能の基礎知識(1/3 ページ)

» 2020年03月19日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 近年、AI業界では「エッジAI」という言葉が注目を集めている。しかし、その内容を具体的に説明できる人は恐らく多くないだろう。本記事では、エッジAIとは何なのかという基本的な内容やそのメリット、活用できる領域などについて解説していきたい。

連載:よくわかる人工知能の基礎知識

いまや毎日のようにAI(人工知能)の話題が飛び交っている。しかし、どれほどの人がAIについて正しく理解し、他人に説明できるほどの知識を持っているだろうか。本連載では「AIとは何か」といった根本的な問いから最新のAI活用事例まで、主にビジネスパーソン向けに“いまさら聞けないAIに関する話”を解説していく。

(編集:村上万純)

クラウドとエッジの違い

 エッジAIは、「エッジコンピューティング」(Edge Computing)をAIに応用したものなので、まずはエッジコンピューティングについて説明したい。

 さまざまなモノにデータ処理と通信の機能を与え、ネットワークに接続させてデータ収集や管理を行うIoT技術が普及しているのは、皆さんご存じの通りだろう。総務省の「令和元年版 情報通信白書」によれば、全世界のIoTデバイス数は2014年には約171億台だったが、21年には約448億台にまで達すると予測されている。

 そうなると、急増するIoTデバイスを受け入れる仕組みの構築が必要だ。「多数同時接続」という特徴を持つ5Gを活用すれば、大量のIoTデバイスをネットワークに同時接続できるようになるだろう。

 しかし、ネットワーク環境だけ整えればいいわけではない。

 例えば工場の設備や機器をIoTで管理することを考えてみよう。機器の異常を検知したい場合は、IoT化した各機器からデータを収集し、分析することになる。だが、そのデータが機密情報に関わる場合は、セキュリティの関係でクラウド上にデータを転送できない可能性がある。また、EUのGDPR(一般データ保護規則)などで国境を越えたデータの流通に一定のルールを設けている場合も、クラウドサービスを活用したシステム構築は難しいだろう。

 セキュリティ以外には、通信の遅延の問題もある。機器の異常を検知してすぐにそれを停止させる必要がある場合は、データをクラウドに転送して解析し、その結果をデバイス側に送信する――というわずかな時間が発生するだけでも、重大な事故につながる恐れがある。

 また、大規模な工場でこのシステムを導入した場合、ネットワークに接続するIoTデバイスの数は膨大になる。たとえ個々のデバイスがやりとりするデータ量は小さくても、全体としては巨大なデータがクラウドとの間を行き来するので、通信速度やコストの点からも好ましい状況とはいえないだろう。

 こうした状況を受けて登場したのが、システムの末端(エッジ)に近い場所で、可能な限りデータを処理してしまおうというエッジコンピューティングの考え方だ。

エッジコンピューティングの概念(筆者作成)

 従来のクラウドコンピューティングでは、エッジ側にあるデバイスは、単にユーザー環境とクラウドをつなぐ中継地点にすぎない。しかしエッジコンピューティングでは、ユーザー環境に近い位置にあるデバイスが、可能な限りデータ処理を行う。場合によっては、クラウドとデータをやりとりすることなく、その場で適切な判断を行って結果を返す。クラウド側での処理が必要な場合も、生データをそのまま送るのではなく、セキュリティや規制上問題のない形に加工したり、必要最低限のデータ量に絞ったりしてから送信できるわけだ。

 こうした利点が注目され、さまざまなベンダーがエッジコンピューティングに関する製品を発表しており、ユーザー企業はその実装に取り組んでいる。

エッジAIは何に役立つのか

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