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未来のAIに“意識”は宿るか AI・認知科学の専門家に聞く(1/3 ページ)

» 2020年03月19日 19時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

 「AI」(Artificial Intelligence:人工知能)という言葉はいくつかの意味で用いられている。近年は、画像認識プログラムなど特定の問題を人のようにうまく処理するプログラムが「AI」としてよく取り上げられる他、もっと単純なルールベースで人の作業を肩代わりするプログラムが「AI」とバズワード的に呼ばれることもある。

 こうした「特定の問題を解くAI」が取り沙汰されるのはそれだけ成果を上げているからで、ここ数年で研究者のみならず世界中にインパクトを与えた出来事の一つには、例えば米DeepMindの囲碁AI「AlphaGo」の登場が挙げられるだろう。

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 しかし、「AI」という言葉が指し示すものに、もっと違う印象を抱いている人もいるのではないだろうか。例えば日本の作品でいえば「ドラえもん」や「鉄腕アトム」、海外のSF作品なら「2001年宇宙の旅」のコンピュータ「HAL 9000」や「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」に登場するアンドロイドなどに代表されるような、「機械に宿る、人間と同等かそれ以上の汎用的な知能」のことを「AI」という言葉からまず思い浮かべる人もいると思う。

 ソフトバンクの「Pepper」のように“感情表現”をプログラムしたロボットも現れつつあるが、先に挙げた架空の作品のような「AI」を実現した例はまだない。

ソフトバンクロボティクスが開発した「Pepper」

 今の「AI」は、これからどのような進化をしていくのだろうか。技術革新の中で、AIやそれを搭載したロボットに人と同じような意識や自由意志が宿ることはあるのだろうか。

 神経生物学やAIについての研究室を多く擁する沖縄科学技術大学院大学(OIST)で、2人の専門家を取材した。

次のブレークスルーは「自律性を持つAI」

 まず話を伺ったのは、精神や認識を研究する「認知科学」について、体と外界の相互作用の面から研究しているトム・フロース准教授。

 フロース准教授は、AIの今後について「次のブレークスルーとなるのは、自律性を持ったAIの登場だろう」という。

OISTで認知科学を研究するトム・フロース准教授

フロース准教授 最近のAIは定義されたドメインの中ではうまく問題を解決できるが、実際の世界はオープンエンド(問題の範囲が定められていない)。AIをより汎用的に用いるなら、人が定義した範囲でしか動かないものではなく、AI自身が自律してクリエイティブに動ける必要がある。

 このような自律性を持つAIには、外界と常に相互作用を持つことが必要になる。今のAIは、コンピュータが定義した範囲で受け取った入力に対しては出力できるが、生命のように外界のあらゆる刺激にリアルタイムに反応したり学習したりといったことはできない。つまり、自律AIには生命のような特徴が必要だ。

 生命が知能を持つルールは今も理解できていないが、身体性は関係しているだろう。生命は常に外界と相互作用する体を持ち、命が尽きるまで活動が止まることはない。その一方で、機械(AI)は電源を切れる。ロボットが動かなくなったら人間が直せばいいが、ロボットが自分自身の活動を止めないように気に掛けることはない。


 フロース准教授はこのように、問題(外界)に自律的に対応できるAIには生命の体に見られるような特徴が必要だという見解を示した。

自由意志はロボットに宿るか

 フロース准教授とは別の研究室ながら、ロボットへのプログラミングから脳の認知メカニズムを解明しようとしているのが、谷淳教授だ。

 谷教授は、「意識の正体は私の中でははっきりしている」としつつ、「ロボットが人ほどの自由意志を持つのは難しいのではないか」と話す。

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