「円安になると株価は上がる――」
このようなフレーズは、投資初心者向けの教材でよく用いられる。そして「日本は輸出国家であるため、日本円が安い方が外国製品と価格勝負をする上で有利である」という具合に続く。
確かにリーマンショックや東日本大震災では戦後最大級の円高が発生し、日本経済に深刻な爪痕を残した。一方でアベノミクスは、円安と足並みをそろえるかのごとく株価の上昇をもたらした。そのような事情もあって、「円高=株安」「円安=株高」という法則が長きにわたり市場に受け入れられてきたのだ。
しかし、その法則がいまや崩れようとしている。2020年の日経平均株価は、2月12日に2万3861円の高値で引けてから、同25日には2万2605円まで1000円以上下落した。しかし、ドル円相場は、2月頭の108.68円から20日には一時112.08円で引け、円安基調となった。足元でも110円台で推移しており、月初より安く推移している。つまり、円安と株安が同時に発生しているのだ。
輸出やインバウンドに強い日本にとって、なぜ円安と株安が同時に起こっているのだろうか。それはコロナウィルスによって日本からリスク資産を引き上げる動きと、経済減速の懸念による円の信用力低下が同時に発生したからだろう。東日本大震災の際は生命・損害保険金の支払いのために保険会社が円を調達したことで、円高に振れたとする説が有力だが、今回は事情が異なる。
コロナウィルスによる医療費は、直接的には民間の保険会社ではなく、大半が社会保障制度における医療保険で賄われるだろう。つまりコロナウィルスが想定以上に拡散すれば、国の財政を直接圧迫し得るのだ。国の財政が圧迫されれば、日本の信用力も低下する。このような連想ゲームが市場関係者の間でなされた結果、リスク回避による株安と、財政悪化懸念に伴う円安をもたらしたのではないだろうか。
このように、円安と株安が同時に発生する現象は、いわゆる「悪い円安」といわれることもある。それは、円安が輸出や観光にもたらす良い影響を差し引いても、経済悪化の影響の方が勝ることを暗示しているからだ。
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