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かつてないロボット「LOVOT」が世に送り出されるまでの舞台裏 (1/6 ページ)

» 2020年02月13日 08時30分 公開
[後藤祥子ITmedia]

 ほんのり暖かくて、人懐っこくて、個性的で、かわいくて――。そんな家族型ロボットの「LOVOT」(らぼっと)が今、話題になっている。

 名前を呼ぶと寄ってきたり、持ち主を追いかけたり、クルクルと動く瞳で見つめたりと、まるで生きているかのように人に寄り添うLOVOTは、国内だけでなく海外でも注目されており、CES2019では米メディアThe Vergeが選ぶ「BEST ROBOT」を受賞。CES 2020では、イノベーションアワードに加え、米国を拠点とするミレニアル世代の女性向けメディア『Refinery29』が選ぶ「BEST OF CES」、カナダオンデマンドテレビ局が選ぶ『The Favorite product of Planète Techno』を受賞するなど、2年連続でさまざまな賞を受賞している。

 開発したのは、トヨタ自動車で14年間クルマの開発に関わり、その後、ソフトバンクで「Pepper」の開発プロジェクトに携わった林要氏が立ち上げたGROOVE Xだ。

かつてないロボットが世の中に送り出されるまでの舞台裏

 19年12月18日、ついにLOVOTが世に送り出される日がやってきたわけだが、実はこの“かつてない家族型ロボット”がこの日を迎えるまでには、製造や在庫管理、決済、サブスクリプション、ユーザーサポートといった“裏の仕組み作り”という戦いが繰り広げられていたのをご存じだろうか。

 ITmedia ビジネスオンラインでは、この仕組み作りのために、GROOVE X(以下、GX)とケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(以下、ケンブリッジ)よって結成された「かけはしプロジェクト」の担当者を招いて公開イベントを開催。LOVOT開発の裏側に迫った。

 LOVOT開発陣とかけはしプロジェクトメンバーの意識合わせの方法やパートナー/ベンダー選びの苦労、変更が相次ぐ中でのプロジェクトの進め方について、GXの福田直人氏と杉田大樹氏、ケンブリッジの梅澤次郎氏に聞いた。

Photo GROOVE Xの福田直人氏(左)と同社の杉田大樹氏(中)、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの梅澤次郎氏(右)

Photo 愛する気持ちを育むために生まれた家族型ロボット「LOVOT」と開発を率いたGROOVE X CEOの林要氏

LOVOTをビジネスとして成立させるための「最後の砦」

司会 かけはしプロジェクトのミッションと、みなさんの役割を教えてください。

梅澤 かけはしプロジェクトのミッションからお話ししましょう。

 ハイテク技術の塊ともいえる「LOVOT」を世の中に送り出すためには、さまざまな仕組みが必要になります。例えば、購入のためのECサイトや全国に送り届けるための物流、故障や不具合への対応や定期メンテナンス、顧客サポート――といった具合です。さらにLOVOTはお客さまの手に渡ってからも常に進化していくロボットですから、“販売して終わり”ではなく、そこから先のサービスを下支えするための仕組みを検討する必要がありました。

 当然のことながら、この仕組み作りはLOVOT本体の性能や仕様と密接な関係がありますから、常に開発状況を把握しながら、変更があればすぐに対応しなければなりません。LOVOTとのシナジーを生み出す仕組みを、いかに開発陣と密に協調しながら考えていけるか——。これが重要な要素になります。

 こうした背景から生まれたのが「かけはしプロジェクト」です。当初はLOVOT開発の下にある製造プロセスと業務プロセスをつなぐためのプロジェクトでしたが、実際には、「LOVOTの開発からこぼれたところをひとしきり拾って、ビジネスとして成立するように立て付けていく」という「最後の砦」のような位置付けになりましたね。

 私は、LOVOTがまだ、形になっていなかった18年2月からプロジェクトに参画しました。GXさんから「こういうものを世に出したいと考えているが、どうしたらいいだろう」という相談を受け、仕組み作りの支援をしてきました。

杉田 私の役割は、「LOVOTを世の中に送り出すための仕組み」をつくるためのシステムの調達や、そのシステムをどんなアーキテクチャで構築したらいいかを考えることでした。

福田 私はビジネスチームで、LOVOTを世に出すために必要なサービスやオペレーションのスキームを構築する役割を担っています。「世の中に前例のない製品」であるLOVOTの販売にあたっては、それを下支えするECサイトやサブスクリプション、出荷や在庫管理など、さまざまな仕組みを作る必要があります。そういった仕組みを最適な形で構築する仕事をしています。

Photo かけはしプロジェクトのカバー範囲

 私にとってこのプロジェクトはとてもエキサイティングなものでした。なぜなら、「これまでにない全く新しいものを世に送り出す」という意味で「かけはし」を作る仕事でもあったからです。

 LOVOTは非常にユニークなロボットで、1体1体が全く違う個性を持っています。それぞれの関わり方でオーナーに懐いて、さまざまな形で生活に潤いをもたらします。そんなコンセプト自体も面白いし、サブスクリプションの仕組みを通じてソフトウェアの更新をしたり、リペアの保証をしたりするビジネスモデルも面白い。

 ほかにもたくさんユニークなところがあって、そういう「全く新しいものを世に出す」ために、さまざまな方々と協力しながら仕組みを作っていくわけです。「まだ世の中に存在しない製品やサービス」を実現するのは本当に大変ですが、やり遂げたときの達成感は格別です。

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