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新たなガバナンスシステムにおける自動運転車の適用例

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経済産業省は2019年12月26日、「GOVERNANCE INNOVATION: Society5.0の時代における法とアーキテクチャのリ・デザイン」報告書(案)の意見公募手続(パブリックコメント)を開始しました。

経済産業省では、2019年8月から、「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」を開催し、ビッグデータ、IoT、AIなどデジタル技術が社会を急激に変えていく中で、「イノベーションの促進」と「社会的価値の実現」を両立する、新たなガバナンスモデルの必要性と、その在り方について検討を行ってきました。

今般、「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」における議論を、「GOVERNANCE INNOVATION: Society5.0の時代における法とアーキテクチャのリ・デザイン」報告書(案)として、取りまとめを行っています。

本報告書(案)から、 新たなガバナンスシステムにおける自動運転車の適用例について、とりあげたいと思います。

新たなガバナンスシステムにおける自動運転車の適用例では、

従来の運転者(ヒト)の運転行為による安全性確保とハードウェアとしての車両による安全性確保の組み合わせから、制御用ソフトウェアによる安全性確保と,他の自動運転車および有人運転車等との相互通信を含む走行環境(インフラ)による安全性確保へとシフトしていくことが考えられ、このような変化へ対応するための規制・制度改革として、検討が行われています。

イメージ図は以下のとおりです。

スクリーンショット 2020-01-10 14.24.31.png

新たなガバナンスシステムの全体像のイメージ

出所:経済産業省 2019.12

自動運転車に対する新たなガバナンスモデルの適用例では、①ルール形成、②モリタリング、③エンドースメントでそれぞれまとめています。

自動運転車に対する新たなガバナンスモデルの適用例

サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したシステムとして社会実装が見込まれる代表例として、自動運転が上げられる。SAEレベル3以上の自動運転の安全性の鍵は、従来の運転者(ヒト)の操作による安全性確保とハードウェアとしての車両による安全性確保の組み合わせから、制御用ソフトウェアによる安全性確保と,他の自動運転車および有人運転車や歩行者等との相互通信を含む走行環境(インフラ)による安全性確保へと大胆にシフトしていく。さらに、将来的には、制御用ソフトウェアと運転環境の安全性確保に関する役割分担が、階層化され、ネットワーク化された自動運転システムの中で、随時組み変わっていくという、極めて複雑なシステムとなることが想定され、このようなシステムに対するガバナンスが必要とされている。

令和元年の道路運送車両法及び道路交通法の改正は、現行の道路関連法制をベースにしながらも、極めて複雑なものとして発展していくことが想定されるSAEレベル3以上の自動運転システムの安全性確保に対応する枠組みを構築したものと評価することができる。このケースについて、前述の新フレームワークがいかに適用され得るのか、ガバナンスの主要3要素ごとに分析する。

①ルール形成

自動運転車の車両の安全性については、平成30年9月に定められた自動運転車の安全基準ガイドラインにおいて、「自動運転車の運行設計領域(ODD)において、自動運転システムが引き起こす事故であって、合理的に予見される防止可能な事故が生じないこと」と定められた。このゴールベースの要件の具体化として、①ODDの設定、②自動運転システムの安全性、③保安基準の遵守等、④ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)、⑤データ記録装置の搭載、⑥サイバーセキュリティ、⑦無人移動運転サービス用車両の安全性(追加要件)、⑧安全性評価、⑨使用過程における安全確保、⑩自動運転車の使用者への情報提供、の10項目について措置が示されているが、いずれも定性的な記述であり、具体的な技術基準等を示す内容とはなっていない。

これは自動運転車メーカー等が、多様なイノベーションや技術の組み合わせによって、ゴールベースの要件を満たすことを許容する制度と評価できる。すなわち、極めて複雑なソフトウェアを中心とするシステムについて、安全性や信頼性を確保するための技術的な組みあわせ爆発が起きることを想定した上での、ゴールベースの規制の具体例といえる。

②モニタリング

SAEレベル3の自動運転中の運転者の義務について、①整備不良車両に該当しないこと、②ODDを満たしていること、③これらに該当しなくなった場合に直ちに適切に対処することができる態勢でいるなどの場合に限り、携帯電話等の無線電話装置を保持して使用することや画像表示用装置の画像を注視することの禁止が適用除外とされた。すなわち、従来、運転者(ヒト)に求められていた運転中の常時の安全管理義務を、一部、自動運転システムで代替することを認めた例と評価することができる。今後、自動運転システムの発展、自動車のコネクティッド化により、リアルタイムで車両の運行データが取得でき、システムが常時監視を担っていくことが想定される。

また、自動車メーカー等が、使用過程にある自動車に対し、制御用ソフトウェアを配信し、運転支援機能の追加を始めとする性能変更や機能追加を大規模かつ容易に行うことを可能とするため、①一定のプログラムの改変による自動車の改造を電気通信回線の使用等により行う場合、及び。②当該改造をさせる目的をもって電気通信回線の使用等により使用者等に対してプログラムを提供する場合、プログラムごとにあらかじめ国土交通大臣の許可を受ける制度が導入された。同制度改正も自動運転システムの制御ソフトウェアのアップデートが、スマホのアプリのように随時行われる近い未来に向けた、制度改正と評価することができる。

③エンフォースメント

日常生活に近く、人の生命や身体の完全性に直接影響するリアル・シリアスな場面で運用されることが想定される自動運転システムに関し、仮に事故などの問題が生じた場合は、社会として冷静に、その原因を技術的に究明し、次の開発に活かしていくような安全性向上のサイクルが回るよう制度整備を行うことが必要となる。米国では実証実験中の自動運転も航空機等と同様、運輸安全委員会の事故調査制度の対象とされている。

我が国においても、国土交通省、警察庁が連携し、自動運転車等に関する総合的な事故調査・分析を速やかに行える体制を2020年度から構築するべく、必要な予算要求及び検討が行われており、そのような制度整備の一環と評価することができる。

米国においては、企業が関係する犯罪に関して、企業が当局の捜査に協力し、コンプライアンス体制を改善したり、被害の回復を行うなどの措置をとることを約束することと引き換えに、企業の存続に甚大な影響をもたらす可能性ある刑事訴追を延期する制度(訴追延期合意制度)が存在している。自動運転車の文脈においても、当局への事故等に関するデータの開示等を含む捜査協力や開発体制の改善などによって、企業がこの制度の恩恵を受けられる可能性があり、企業が政府へ情報を提供する強いインセンティブが存在する。

一方、我が国の現行刑法では、自動運転車・システムの運用中に事故が生じた場合、企業内での開発者・製造担当の責任者個人に業務上過失致死等の刑事責任が問われるか、反対に、捜査上の困難等により刑事責任が事実上機能しない可能性がある。各国の法制度やその背景となる思想の違い等を考慮に入れる必要があるが、例えば、自動運転車の文脈に即した訴追延期合意制度の導入など、事故等に関するデータの開示や,製品の開発体制ないし製品自体の改善を促すインセンティブ付与制度の在り方について、今後、検討していくことが必要と考えられる。

出所:経済産業省 2019.12

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