クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

日本のEVの未来を考える(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2020年01月20日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

 EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」の多くは、欧州のプロパガンダに手も無く丸め込まれたか、フラットな振りをして実は単なるEVのファンの承認欲求だったりするものがほとんどだ。

 反対に「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」もダメだ。情報を拒否して耳をふさぎ、EVの今を知ろうとしないで、内燃機関に固執し、ただ一方的に新しいものを否定するような議論には意味はない。現状を踏まえて、今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話をしなければならない。

 結論としては「日本にEVを普及させる方法はある」と思う。例によって前後編と少し長いが、おつきあい頂けると幸いである。

2019年の東京モーターショーに日産が出品した軽自動車規格のEVコンセプト「iMk」

バッテリーという製品の特徴

 今、EVの普及を阻んでいるのは、詰まるところバッテリーである。バッテリーの何がという話になれば、コストと生産量の両面だ。

 バッテリーが爆発や炎上を起こす最大の原因は不純物の混入だ。だからバッテリーの生産ラインにはクリーンルームが必要になる。バッテリーとは陽電極板と陰電極板の間に電解質を置いて、電解質を媒介として電極間の電子を移動させることによって蓄電/放電する仕組みだ。

図はパナソニックの補機用バッテリー。電極を多層にして電解質を介して電子を移動させる仕組みは、EVの動力用でもバッテリーでも変わらない(パナソニックHPより)

 この陰陽電極セットと電解質を組み合わせて、出力が得られる最低単位セットをセルという。EVに使うバッテリーは、このセルをいくつも重ねてミルフィーユ状に構築してできている。

 これを小型軽量化することとは、すなわち積層される電極と電極の距離をどれだけ近づけるかに依存する。その際、電極間に導通性のある異物が入れば当然ショートを起こす。あるいは、電解液中に析出結晶が発生するなどの原因でショートする場合もある。これが発熱源となって爆発や炎上を起こすのだ。

 そういう問題を少なくするために間にセパレーターという膜を入れるのだが、セパレーターの抑止力は万能というわけではない。導通性のある金属片などの異物が膜を突き抜けてのショートはもちろんのこと、析出結晶でも引き起こされる。析出結晶は核になる異物があれば起きやすくなるので、結局バッテリーの小型軽量化を左右する要素の大半を占めるのは、不純物の混入をいかに防ぐかということになる。

 逆にいえば、簡単に安全なバッテリーを作るためには、セルの電極間のクリアランスを大きく取り、多少の異物が入ってもショートしないようにセルを小型化しないことだが、それではちっともエネルギー密度(体積もしくは重量あたりのエネルギー)が高まらない。だから、電極間を縮めていきたいけれども、詰めれば詰めるほど、より高度なクリーンルームが必要になる。仮に数十ミクロンでコントロールしたいとなれば、数十ミクロンの異物混入を防がなくてはならない。

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