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激増する“ワンオペ管理職” 「かりそめの働き方改革」が日本をダメにする令和時代の「インパール作戦」か?(1/5 ページ)

» 2019年05月23日 05時15分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
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 日本では1人仕事をする「ワンオペ管理職」が激増している――。そう指摘するのは、『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』(文藝春秋)の著者、熊野英生氏だ。

 この書籍から抜粋した『ブラック企業だけじゃない 「ワンオペ管理職激増」の深層』には、多くの反響が寄せられた。ワンオペが増えることで個人の生産性が上がったとしても、そのノウハウは受け継がれることなく消滅し、結果的に組織としては生産性が上がるどころか、損失につながると熊野氏は警鐘を鳴らす。

 しかし、ワンオペはこれからもどんどん広がっていく危険性がある。それは日本の会社が導入してきた成果主義や、政府が進める働き方改革に問題があるからだという。問題の背景を熊野氏に聞いた。

phot 熊野英生(くまの ひでお)第一生命経済研究所経済調査部・首席エコノミスト。1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、日本銀行入行。同行調査統計局、情報サービス局を経て、2000年に第一生命経済研究所入社。11年より現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会理事

社員を大切にしなければ業績は伸びない

――著書『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』では、ワンオペ管理職が増えている背景として、多くの日本企業が生産性の上昇というミッションを組織として考えず、個人に丸投げしている点を問題視しています。なぜそうなってしまったのでしょうか。

 まず、大企業と中小企業では人に対する考え方が違います。中小企業の場合はまさに人が命です。社員を大切にして、大事に育てなければ、業績は上がりません。

 私がそう考えるのは、妻が中小企業を経営していることが背景にあります。もともとは妻の父、つまり義父が社員12人ほどの工場を経営していましたが、13年前に脳出血で倒れ、2週間後に亡くなりました。

 義父の死があまりに急だったので、社員の雇用の維持と、取引先の会社を守るために、それまで経営には関わっていなかった妻が会社を引き継いだのです。

 経営は紆余曲折あり、リーマンショックの時は私も眠れない夜を過ごしました。それでも今日まで何とかうまくいっています。中小企業の経営を間近で見てわかったのは、社員が働きやすい環境を整えてチームワーク力を高め、いかに社員の生産性を最大化するかが、業績に連動することです。ワンオペでは立ちゆかないんですね。「手触り感」のある経営をするということが、大企業とは全く違うと感じています。

 一方の大企業は、かつては35歳になれば課長、45歳になれば部長といったように、年齢と役職が一体化していました。ところが現在は、年長者が多いために社内人口のピラミッドが逆三角形になり、役職のヒエラルキーだけでは管理できなくなっています。

 つまり、日本型の経営では組織の秩序が保てなくなったのです。かといって、経営陣もどうすればいいのかは分かりません。その結果、「1人で何とかしろ」と成果主義があてがわれてしまったのです。

成果主義にメスを入れなければ変わらない

――成果主義がワンオペ管理職を作った、ということでしょうか。

 成果主義は日本では1990年代後半から導入する企業が出てきました。しかし、その目的には人件費の削減があるなど問題点が多く、経済論壇ではすでに2002年頃に、成果主義は欠陥の多い仕組みだと見なされていました。

 ところが、団塊の世代が60歳に近づいてくると、なぜか成果主義が当たり前のように広がったのです。成果主義によって個人単位で業績を考える悪癖が広がり、ワンオペ管理職が増えていきました。

 ワンオペの仕事は明らかに非効率ですが、日本の企業は新しい仕組みをつくることができていません。その結果、成果主義が20年以上も存在し続けているのです。

 現在も定年延長によって、役職定年をした人が10年近く会社に居続けるという状況が生まれています。その理由は、年金の支給開始が65歳になっているから仕方がない、というだけです。日本の雇用は消化不良のまま続けている成果主義にメスを入れて、問題点をはっきりさせる必要があります。

phot 表層的な成果主義にメスを入れなければならない(以下、写真提供:ゲッティイメージズ)
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