相次ぐキャンペーン なぜ決済ビジネスに各社は必死なのか?

» 2019年04月22日 13時39分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 QRコード決済をはじめ、キャッシュレスの決済ビジネスを巡る競争が加熱している。各社は絶え間なく高額のポイントを還元するキャンペーンを実施し、ユーザーの獲得に必死だ。なかには、今後の収益の見通しを考えると、これほどのキャンペーンを実施して大丈夫なのか? という疑問もある。

 各社は何を目指して決済ビジネスを必死に推進するのか。4月20日に金融庁が主催した「つみたてNISAフェスティバル」に、LINE、KDDI、ソフトバンクの担当者が登場し、金融業界への新規参入の狙いを話した。

パネルディスカッションに登壇したLINE Financialの吉永幹彦執行役員(左)、KDDIアセットマネジメントの藤田隆社長(中)、ソフトバンクのFintech事業開発部長の佐伯貴之氏(右)

自社経済圏のハブとなるのが決済サービス

 なぜ、キャンペーン合戦が繰り広げられているのか? 新規市場を早く押さえる、本業の顧客とのエンゲージ促進、そして自社経済圏の構築を目指すのが各社の狙いだ。

 LINE Financialの吉永幹彦執行役員は、スケールが大事だと話す。「LINE Payでも還元をやっているが、決済手段はスケールが重要。パイの取り合いのときに同じことをやると共倒れだが、QR決済はまだ浸透していない」

 LINEにおける決済のビジネスモデルは「現金管理手数料を置き換える」というものだ。「昔は決済ビジネスがなく、決済には手数料が発生していなかった。しかし、実は事業者の現金管理にコストがかかっていた。そのコストをほかの形に置き換えられないかというところで動いているのが決済ビジネス」(吉永氏)

 いま決済ビジネスに続々参入しているのは、通信やECなどで大きな顧客基盤を持つ企業が多い。決済という金融サービスを提供することで、既存ユーザーとのきずなを強くし、本業へのユーザーの定着率を高めることを狙う。

 「決済は日常の消費のベースになる。使ってもらうほどエンゲージメントが高まる。そのためには心地よい決済体験を提供することがマスト。auを使えばポイントももらえるし、ということでauのファンになってもらう」と、KDDIアセットマネジメントの藤田隆社長は話す。

 課題意識をもって取り組んでいる人はネット証券などを活用しているが、資産形成に取り組めていない人も多い。そこに取り組みを促す必要があるとも言う。「本来資産形成は、みなさんすべてがやるべきだが浸透していない。顧客基盤を持っているLINE、KDDI、ソフトバンクなどから気づきを与えていく。既存金融機関とは補完関係にある」(藤田氏)

 さらにソフトバンクは、自社グループ内で経済圏を作り、ポイントを還流させてユーザーを囲い込むことを狙う。楽天が、楽天ポイントを軸に作り出した経済圏が一つのモデルだ。

 「これだけキャンペーンでポイントを出して大丈夫かというと、ソフトバンクの各事業をつなぐハブになるのがポイント。自社経済圏の中でサービスを使ってもらい、ファンになってもらう。キャッシュレスということでQR決済を推進しているが、給与が入る銀行口座からアプリにチャージしてもらえるか、どう促すかが重要。いまはキャンペーンや還元でやっているが、ここが自然な流れで行えると加速していく」(ソフトバンクのFintech事業開発部長の佐伯貴之氏)

データ資本主義がさらに加速する恐れも

経済評論家の山崎元氏

 一方で、すでに豊富な個人情報を持っている各社が、さらに決済情報を入手することに懸念の声も挙がる。

 楽天証券の客員研究員で経済評論家の山崎元氏は、こう話す。「この人はセールスされれば羽毛布団も買っちゃうし投資信託も買っちゃう人だと分かるようになる。リアル店舗での決済を把握されるのは情報の把握としてはかなり気持ちの悪いこと」

 ただし、この流れは不可避であり、世界の流れからしても規制強化は難しいだろうとも言う。

 「お金の流れの情報は価値があるので、情報の利用法については(規制)緩和する、ただし利用実態は明らかにしなくてはいけない。データを利用したビジネスは世界的には止められない。日本だけが制限しても有効に機能しないし、世界からテクノロジーの面で遅れていくことになる。単に個人の情報を保護しようという方向になりがちだが、規制強化の方向でいってもいい方向にならない」(山崎氏)

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