“一昔”は1年前、“二昔前”は3年前と心得よ”といわれるITの世界。会社の未来を託す新人たちに、きちんと最新のトレンドを伝えることができているだろうか? 意図せず“古いくさい”教育を押し付けてはいないか?
「これから、斎藤先生の講義が始まります。講義中は、いつものようにPCやスマホは片付けて講義に集中し、しっかりノートをとってください」――ある新入社員研修の冒頭、研修会社の担当者が、私の紹介とともにこんな指示を出した。これは講師への敬意であり、気遣いである。そして、その担当者に促されて、前に出た私は、まず次のように伝えた。
「いま、PCとスマホを片付けるように指示がありましたが、私の講義では、その必要ありません。むしろ積極的にPCやスマホを使って、分からないことをその場で調べて解決してください。自分の知らないことを知っていそうな人にLINEして、質問して教えてもらってください」
会場は一瞬にして緊張が和らぎ、笑みがこぼれた。さすがにプライベートな研修なので、「ハッシュタグはこちらを使ってください」とは言わなかったが、それでも、新入社員たちは自分たちの「普通」で講義を受けることができるようになり、ストレスからも少しは解放されたはずだ。
いまだこんな思い込みから離れない人たちがいる。そういう人たちが、新入社員研修を担当すると、彼らの持ち味をつぶし、昭和的な価値基準や仕事のやり方を正しいことだとして押し付けてしまい、柔軟な発想の芽をつんでしまうのではないだろうかと心配になる。
講師への敬意や講義への集中などは、講師の力量の問題だ。講義がへたくそであれば敬意など生まれることはないし、退屈で眠くなる。意欲がない、努力が足りないからだというのは、講師の言い訳にすぎない。
彼らに我慢をさせて、カタチを強制して、どれほどの意味があるのだろう。PCやスマホを使いこなせる感性やリテラシーを持っているのなら、それを使った方が、よほど講義の効果は高まる。スマホで遊ばせるほど集中させられないのは、講義が面白くなからだ。講師はそのことを自覚すべきだ。
数年前のことだが、新入社員研修で一番前に座っていた受講者が、私の講義の最中にずっとスマホで「遊んでいた」。さすがに見かねて、私は「講義中はスマホをいじるのをやめなさい」と言ったことがある。すると彼は、バツが悪そうに、そして素直にわびて「すいません、講義のノートをとっていました」と言った。私は、恥ずかしくてショックだった。そして大いに反省し、スマホを使い続けてもいいと彼にわびて伝えた。
自分は、若者の気持ちはそれなりに理解していると思っていたが、この出来事は私をひどく傷つけた(ちょっと大げさかなw)。それ以来、新入社員研修では自らを戒めるためにも、冒頭でこのようなことを伝えるようにしている。
ブログでも度々書いているが、いまのIT業界で行っている新入社員研修は時代感覚のずれているところが少なくないように思う。
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