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ECで流通を革命したAmazon 今なぜリアル店舗に注力するのか特集・ITで我慢をなくす「流通テック」(1/4 ページ)

» 2018年07月05日 13時00分 公開

 オンラインショッピング事業者として急成長し、EC(電子商取引)で世界の流通と小売を革命した米Amazon.com。最近はオフラインでの活動も目立っており、高級スーパーマーケットチェーンの米Whole Food Market買収や、自ら運営するレジなし店舗である「Amazon Go」のオープンなど、リアル店舗の話題が増えている。

 米Recodeが2017年10月にAmazon.comの米国オンライン通販シェアを報じているが、2016年の38.1%から2017年には43.5%まで上昇しており、全体のおよそ半分程度を占めるに至っている。既存のリアル店舗事業者からみれば「オンライン世界の覇者がオフラインの世界に進出して“総取り”する」という感想を抱くのも当然の話だ。

Amazon 米ワシントン州シアトルにあるAmazon.com本社ビル(HQ1)。1階にAmazon Goの店舗がある。手前に見えるのが「Sphere」と呼ばれるアマゾン熱帯雨林を模した温室

 Amazon.comは1994年に創業し、2000年前後のドットコムブーム以前から存在しているわけだが、20年以上の歴史の中で何を行い、これから何を目指そうというのか。米国での動向を紹介しつつ、世界の流通と小売に多大な影響を与え続ける同社の戦略を分析する。

徹底したコスト削減により書籍販売で勝利した草創期

 最近のAmazonを日常的に利用してどっぷり漬かっていると、同社がもともと「オンライン書籍販売」の会社だったことを忘れてしまっているかもしれない。

 1998年に取り扱い品目を拡大するまで、同社は5年間にわたって書籍を扱う専門事業者だった。当時のライバルはリアル店舗を運営する街の本屋であり、米Barnes&Nobleや米Bordersといった大規模なブックチェーンだ。1990年代から2000年代前半は、本屋の世界にも大規模店舗化の波が到来した。前述のチェーンはその代表格で、大都市の中心部や教育機関、郊外まで、店舗を次々と拡大して売り上げを増やしていった。

 大規模店の魅力の一つは在庫数であり、「そこに行けば目的の本がある」という安心感にある。また再販制度のない米国では本の値付けが各店舗の裁量にまかされており、「人気のベストセラーと目される書籍を大量に仕入れて定価で売り抜けた後、売れ残りをどんどん値下げして売りさばく」という手法が日常化している。つまり大量に客を集めておいしいところをさらっていくというのが、大規模店舗の常とう手段だったわけだ。

 さらに大規模店舗はカフェチェーンとの提携も増やし、「本を選びながらカフェで休憩」といったスタイルの店舗展開を行い、顧客の滞留時間を増やしていく。こうして少なくない街の小さな本屋さんが、書店のチェーン化の中で消えていった。

Amazon モールに入居する米Barnes&Nobleの店舗。Starbucksのカフェコーナーを設置している

 これをオンライン事業者の立場から実践していったのがAmazonだ。当たり前だが、オンライン事業者は米国内のいずれかの倉庫に在庫があれば、すぐにでも商品を顧客に発送してニーズに応えられる。店舗まで行ったのに在庫切れでがっかり、ということがない。

 またAmazonは運営コストを最大限削った上で、積極的な割引販売を仕掛けていた。利益面でみればマイナスだが、前述のようにベストセラーの定価販売で稼いでいたような書店にしてみれば、対抗のために割引して徐々に体力を削られる結果となる。しかもリアル店舗を持たずスケールが容易な分、コスト面はAmazonが有利だ。

 そうして、拡大期の終わった書店の世界ではBordersが2011年に経営破綻(チャプター11申請)したことをはじめ、一気に縮小期へと向かっていく。Barnes&Nobleは規模を縮小しながら現在もなお営業を続けているが、最盛期と比べて街で店舗を見掛ける機会は減っている。

Amazon かつてサンフランシスコ市内に存在したBorders店舗の最終日。入口には閉店の告知
Amazon 最終日なのでセール対象となった本棚はほぼ空になっていた
Amazon 本棚から什器(じゅうき)まで、売れるものは全てセール対象。Amazonに敗北したブックチェーンとして印象的な光景だ

 リアル店舗衰退期の中でなお生き残っている書店というのが、かつて大規模チェーン拡大の陰で生き残った「取り扱い商品や店舗運営で特徴のある個人書店」というのも皮肉な話だ。

あえて“利益を出さない”Amazonの恐ろしさ

 オンライン書店時代から現在まで、Amazonが徹底していることがある。それは営業利益をギリギリまで削り、残りのほとんどを顧客への還元や将来への投資に当てている点だ。

 投資情報サイトのGuruFocus.comでAmazonの営業利益率(Operating Margin)をみると、2017年は2.31%と低く、2014年に至っては0.2%しかない。他の小売業者との比較では、2017年の米Walmartが4.08%、米Macy'sは6.26%(少し前までは10%を上回っていた)となっており、Amazonの営業利益率は際だって低いのだ。

 さらに、利益率の高いビジネスであるクラウド事業「AWS(Amazon Web Services)」の業績を除けば、2017年の利益率は2%未満まで低下する。株主からしたら「何でこれだけ圧倒的シェアがありながら、全然利益を出せていないんだ」と思うはずだ。

 実際、株式上場(IPO)から20年以上が経過しているAmazonの歴史において、株価が上昇してきたのはここ5年ほどのことで、利益率で超低空飛行を続ける同社の真の恐ろしさに気付いて、ようやく評価され始めたという段階にある。

Amazon Amazon.com(AMZN)の過去20年にわたる株価推移(出典:Google Finance)。株主に同社が評価され始めたのは比較的最近の話だ
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