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「技術あるのに存在感ない」 日本のAI研究が抱えるジレンマ

» 2018年08月31日 17時28分 公開
[村上万純ITmedia]
AI AIベンチャー・コーピー(東京都文京区)の山元浩平CEO

 「同じ技術レベルでも、論文を出していないだけで評価されないこともある。日本はAIの研究者をはじめ、どんどん論文を出していくべき」――AIベンチャー・コーピー(東京都文京区)の山元浩平CEOは、こう話す。

 8月30日、東京・大手町で開催されたイベントで、日本のAIスタートアップ関係者らが登壇した。

 日本はAI研究で米国や中国に後れを取っているといわれているが、山元さんは「決して日本の技術力が他国に比べて低いというわけではない」と感じている。しかし、登壇者らは口をそろえて「世界のAI研究の中で日本のプレゼンス(存在感)は低い」と苦笑する。そこには、国際会議での論文発表数が関係しているという。

 論文発表以外でも、大企業と協業する中で「そんなことをしている間に……(世界に置いていかれてしまう)」と歯がゆさを感じることもあると、オルツの中野誠二CFO(最高財務責任者)は胸中を明かした。

 これから日本のAI研究・開発者が世界に挑戦していくためには何が必要なのか。登壇者らが、ベンチャー企業から見る「日本のAI開発の現場に足りないもの」を語った。

国際会議で論文発表を

 画像処理技術などを扱うコンピュータビジョンのトップ国際会議「CVPR2018」では、米GoogleやFacebook、中国Sense TimeといったIT企業が多くの論文を発表し、業界をけん引しているという。「ここでの発表数が、AI企業としてのプレゼンスに直結する」(山元さん)

AI 画像処理技術などを扱うコンピュータビジョンのトップ国際会議「CVPR2018
AI 日本は論文発表数では存在感を出せていないという

 なぜ、日本企業の論文は少ないのか。その一因として、山元さんは「日本の大学院では1人で複数のタスクをこなす傾向がある」ことを挙げる。

 フランス国立情報学自動制御研究所(INRIA)でAI研究をした経験もある山元さんは、「日本に比べてフランスの研究所は分業ができており、論文を書く人とエンジニアは分かれていた」と振り返る。日本もフランスのように分業した方が、論文執筆やAI開発といった各タスクにより集中できるのではないかと考える。

 中野さんは山元さんの意見に賛同しつつ、別の視点で日本のAI研究の現場を見ている。「日本のAI研究者は、理論は好きだが実装にあまり興味がないという特徴がある。海外では理論も実装もできるベトナム・ハノイ工科大学のような所もあるが、日本は違う」とし、「技術力と実装力に強みがあるスタートアップとしてはそこが狙い目」と産学連携で世界に挑戦する考えを示した。

大企業は意思決定が遅い

AI オルツの中野誠二CFO

 1980年代から大手IT企業でAI研究をしていた中野さんは「自分も経験があるので分かるが、大企業は意思決定が遅い」ともどかしさを語る。「少なくともスタートアップと付き合うときはアジャイル(素早い開発を重視するソフトウェア開発の手法)でやってほしい。トライ&エラーでいいと思う」と続けた。

 自動運転車の開発を行うアセントロボティクス(東京都渋谷区)共同創業者のフレッド・アルメイダさんは、「(多機能化・高機能化しがちな製品開発について)日本はよくガラパゴスといわれるが、AIも同じように国内向け(で閉じたもの)にならないか心配だ」と懸念をもらす。世界に目を向けてAIを開発するに当たっては「もっと大きいビジョンが欲しい」と語った。

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