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スマホカメラで見る世界 進む自立支援、視覚障害者向けアプリのいま“日本が知らない”海外のIT(1/2 ページ)

» 2018年06月15日 06時00分 公開
[中井千尋ITmedia]

 「自分がもし失明したら……」と想像したことはあるだろうか。普段は意識すらせず、当たり前だと思っている目が見えるという能力が失われたら。一体、どんな助けがあれば生活できるのだろうか。

 実は昨今、テクノロジーの発達と共に昔では考えられないほど視覚障害者を助ける環境が構築されつつある。自立した生活を実現したい彼らの力になるアプリの1つが、オランダ・デルフトで開発された「Envision」だ。

スマホカメラでのぞいた世界を読み上げる

 Envision はAI(人工知能)を搭載したアプリ。ユーザーはスマートフォンのカメラで見たいモノや光景があるであろう方向を撮影して使う。

 主な機能は、文字の読み上げ、周囲の状況説明、色の識別、家族・友人などの顔認識、所持品などモノの認識、そして他のアプリ内に表示された画像の説明。読み取ったバーコードから商品を説明する追加機能も現在開発中だ。

AIアプリ 左から、状況説明機能、文字読み上げ機能、顔認識機能、物体認識機能

 文字の読み上げ機能では、道路標識や食品のパッケージといった短い文章だけでなく、手紙などの長い文章や手書きの文字(現時点ではβ版)にも対応する。また、全盲ではないが視力が極端に低い視覚障害者向けには、文字を1文字ずつ拡大して表示する機能もある。

 状況説明機能では、ユーザーの周りに何があるか、目の前で何が起こっているかを説明してくれる。重要なのはユーザーが求めている情報を説明できること。ユーザーが電車に乗っていたとして、「電車に乗っている」という事実はもはや説明不要。Envisionはそういった判断を瞬時に行い、本当に必要な情報を提供する。

 なお、状況説明機能は周りの状況だけではなく他のアプリ内の画像にも対応する。内容を知りたい画像がある位置をタップし、「シェア」からEnvisionを選択すれば、画像がどんなものかを説明してくれる。

AIアプリ 画像認識では、画像に含まれるモノとテキストを分けて読み上げる

 Envisionの各機能は必要に応じて同時に使用可能。例えば友人が目の前のテーブルに座っていたとして、「メアリーがノートPCを机に置いて座りながら、カメラに向かって微笑んでいます」と状況を説明しながら、顔認識機能で座っているのが誰かを判断してくれる。

 Envisionは最初の14日間はトライアル期間として無料だが、その後サブスクリプションに切り替える必要がある。毎月払いは4.99ドル(約550円)、6カ月前払いは24.99ドル(約2750円)、1年前払いは39.99ドル(約4400円)、サブスクリプションではなく生涯使用できるプランも199.99ドル(約2万2000円)で用意している。

 対応言語は欧州各国の言語に加え、ヘブライ語やアラビア語など既にに63言語。同サービスの開発者およびデザイナーが、学生の半数が留学生というオランダ・デルフト工科大学出身ということもあり、当初からグローバル展開を視野に入れ開発されているようだ。リリースは2018年2月。4月末の時点でユーザー数は約100人だという。

貧困層の障害者を救う寄付機能も

 Envisionの開発元であるスタートアップは、インド出身でデルフト工科大学卒業生であるプロダクトデザイナーのカールティク・マハーデーヴァン(Karthik Mahadevan)さんとエンジニアのカールティク・カナン(Karthik Kannan)さんが、2017年に創業した。

視覚アプリ 左からカールティク・マハーデーヴァン(Karthik Mahadevan)さんとエンジニアのカールティク・カナン(Karthik Kannan)さん

 着想のきっかけは、マハーデーヴァンさんが母国のインドにある盲学校を訪問したこと。視覚障害のある学生たちが一番欲しいもの――それは「自立した生活」であることに気付いたという。彼はプロダクトデザイナーとして、視覚障害者を助ける方法があるのではと模索し始めた。

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